「インターネットの匿名性は卑怯で、正々堂々と実名顔出しで意見を言う人が正しい」という風潮(+規制)についての違和感

今回は「『匿名性=卑怯、実名性=正々堂々』という主張は本当なのか?」について書いていくんですが、まず軽く自分の黒歴史から語りたいと思います。

僕は元々匿名性のインターネットに結構毒されてた方だと思います。もうだいぶ昔の、今ほど誹謗中傷による裁判とかが当たり前じゃなかった時代。とある有名声優がTwitterで誹謗中傷だかなんだかについて語ってて、その時「スラム街でメガホン持って人権演説してんじゃーよ平和ボケが、ここは隠れて人を撃つスナイパーが集まってんだよ」みたいなこと考えてイラついてた記憶があります。いやー……今思うと何考えてんだ?普通に今こんな話してたら人格否定されてキモがられても仕方ないし色々と他人に対する想像力とか欠如してるよなと自分でも思う、悪い意味で厨二病っぽい。根がチキン野郎だから多分ツイートはしなかったと思うけど。

ただ当時の自分としては「インターネットの他人は玩具w」みたいな周りの空気に必死に適応しようとしてたんだろうなと思う。言い訳にしか受け取られないと思うけど、昔はマジでインターネットって無法地帯で、仮面着けてそこらじゅうで殴りあってクズアピールするのが偉いみたいなとこあったんですよ。今と違って独自のルールで形成されてて「『死ね』は挨拶」「郷に入っては郷に従え」「嫌なら入ってくるな」「お前インターネット向いてねえよ」って感じ。ただクズが集まるインターネットの匿名性だってメリットはあって、その中でしか生まれない文化や発掘される才能や居心地の良さがあった。だけど有名人が入ってきて社会の正論を振りかざして説教するようになって、言論規制みたいなことが始まってインターネット文化が壊れることを危惧して不安だったのかも(そんな脳みそ自分にあるか?)

まあそんなインターネットから一転、人権尊重を目指した社会になりどんどん締め付けが厳しくなって、バズッてインフルエンサーになって他人に配慮したこと言うのが偉いって真逆の空間になったわけですが、そこで実名性が偉いという風潮・主張を目にするようになってきた。

ただ、僕が考えるに、匿名でも実名でもメリット・デメリットはあるんですよね。

匿名性のデメリットは改めて言うまでもなく皆さんご存知って感じだと思います。無責任に暴言吐いて過激化したり嘘ばっか拡散されたり散々です。当たり前のように死人も出るようになってしまった。

「匿名は卑怯だし何らかの規制をすべき」ってのは自分を刺すようで認めたくない気持ちはあるものの、まあ大まかには認めざるをえないかなあ……。

「安全圏からものを言う」って批判もあるけど、それについては後述もしますが違和感ありますね。最近はネットの匿名性って守られてなくて垢BANや特定リンチや開示請求のリスクは常にあると思うし、言うほど安全圏じゃない気がするので。

匿名と実名すら揺らいでるとこがあって、Vtuberや歌い手のように「匿名だけど有名人」みたいな人達がいて、そういう人達が匿名の誹謗中傷を非難する場合もあると思うので。個人的には一番もやもやするパターンだけど……。

僕だってTwitterにハマってた頃、匿名の悪意にボコられて傷付いたりウザったく感じたりはそれなりにありました(あー思い出したら腹立ってきた!)。なので「匿名の有象無象の罵詈雑言が許せねえ!」って気持ちはわかる。

ただ今回の本題はそっちじゃなくて「だから実名は正々堂々としてる、インターネットは実名性にすべき」って考えについて。これが割とよく見聞きするけど短絡的で危険なんじゃないかなーと思う、腑に落ちない。賛同できない。


インターネットを実名性にしたがる人って元々実名で活動している人や有名人の側に多いように感じます。もちろん匿名の人間に誹謗中傷されやすい立場ってのはあると思いますが、単純に実名性でメリットを受けやすい立場の人達ではないでしょうか。
実名や顔出しで意見するってなると容姿や肩書きや経歴や話術が重要になってくる。社会性、社会的地位みたいなものが関係しやすくなる。意見そのものの純粋な正当性よりも外側にある説得力が重要になるというか。「何を言うか」ではなく「誰が言うか」の世界になるってこと。これがメリットに働く場合もあるし、デメリットに働く場合もあると思う。実名で活動する人達はそもそも実名性に適性があってメリットに持って行きやすいと思います。

それに、日本でこれだけ匿名性のインターネットが流行ってしまったのって、実名性の世の中に対するカウンターが求められていた部分があると思う。SNS普及以前は「世の中の常識」という同調圧力・権力で押し潰されていた社会に対する違和感や個人的な不満が次々と吐露され、共感され、拡散される。バカッターなどの悪事が表面化し、裁かれる。そういった流れが生まれた。だけど今度はそれが正義中毒を覚醒させる状況を作ってしまい、面白おかしく捏造された情報がばら蒔かれ、ネットリンチによるオーバーキルが常態化。有名人がネットに参入して意見を言うようになったこと、誹謗中傷で死者が出るようになったことで社会的に対策が求められ、ネットの匿名性を否定し実名性が持ち上げられるようになったって流れかなと。

だから匿名性に問題点あるのは分かるけど、実名性にそもそも問題あったことが忘れられてるんじゃないか?って思っちゃう。
「実名顔出しは正々堂々としてる」なんて簡単に解釈しちゃっていいのかと、匿名性への安易な逆張りになってないかということです。
実名顔出しで活動する人(芸能人とか)って注目されることが能力であり商売みたいなとこがあって、一般人とは立場がそもそも違うし。

「誹謗中傷許せない」って芸能人は言うけどインターネットが発達する前は芸能人とかテレビで一方的に一般人の悪口言いまくりだったし。「インターネットで誹謗中傷書き込んでるのはニート」みたいなイメージもニートに対する誹謗中傷みたいなもんだろとは前から思ってた。僕はニートのくせにやたらこういう社会問題考えて変な気を使う方なので。

で、安全圏ではなくリスクを負って発言してるってのも違和感がある。最近あまり聞かないけど昔Twitterで「信者ファンネル」って言葉があって、フォロワー抱えてる人気者は批判されても信者がアンチに特攻してくれるから手を汚さずに圧力かけられて有利だ的な批判があった。
人気や権力が防御力になるパターンもあると思うから、実名顔出しがリスクを背負ってるってとこだけ押し出されるとなんか腑に落ちない。もちろん確かに注目されればされるほどアンチが増えて刺されるリスクとかもあるとは思う。
僕は昔、有名人がテレビでコメントしてたことに傷付いたことがあって、精神科で相談したんですけど、精神科医は「そういう人達はいつ刺されるかも分かんない立場だし、いいんじゃないですか?」みたいなことを言われたことがあったんですね。よく考えると恐ろしい考え方だなって。
こういう考えって有名人側からもたまにある気がする。危険な目に遭うリスクを背負ってる、責任をとってるみたいなことを誇る。確かに正々堂々としてかっこいいって言いたくなるのも分かるんだけど、根本的におかしくないか?
まず議論したり意見したりする場合、一人一人安全が確保された状態で冷静に意見を出しあって、相手を尊重して、間違ったデータに対しては訂正するってのが筋だと思うけど僕がおかしいんだろうか。もちろん飽くまでこれは理想論だと思うし、現実には人間は衝突して、違う意見の人間から攻撃されるものだから、危険を省みないかっこよさがわからないわけじゃないけど、かっこよさ=正しさみたいにネット規制をかけられたりするのって何か違う気がする。まあ民主主義の基本すら理解してる自信無いから僕みたいなバカが語れることじゃないけど。意見に責任を持つとか真摯に問題に向き合うって何も危険を冒すことじゃないだろって思ってしまう。趣旨変わってないか?


実はインターネット以前に、僕には実名性が正々堂々としてるという意見に反発を覚えた原体験のようなものがある。もう昔過ぎて曖昧な記憶ではあるけど、中学の時に学校一のヤンキーが陰口の話に対して「そういう卑怯な奴が一番嫌いやねん!」とか騒いでた記憶があるのだ。(いや、こいつの被害に遭ってる奴はそりゃ陰で言うしかないだろ、何してくるか分かんないのにどっちが卑怯だよ……)って思ってた。別に僕が陰口言ってたわけじゃないけど、僕はその不良に色々とされたこともあるし、理不尽に危害を加えられる(確か口開けさせて唾吐くとか)って話が回ってたので言われても仕方ないことしてるだろって感じだったんですよね。だから「実名は正々堂々、匿名は卑怯」って短絡的な主張をする人に対して「気に入らない奴には権力とか暴力とかで威圧して黙らせる気なんかなあ……」ってイメージを持ってしまう。まあこれって私怨だし偏見だよなあとは自分でも思うけど。

僕自身が弱者意識を拗らせた底辺で、だからこそ匿名インターネットに救われた時期もあった。だけど弱者が弱者であることを武器に匿名で猛威を振るってしまうインターネットには辟易してるし、別に匿名が素晴らしいとか今さら思ってはいないけど、実名でも匿名でも結局人間の愚かさって違う形で滲み出てくるだろってツッコミはどうしてもどこかのタイミングで入れたかった。

現段階で僕は卑怯な匿名のネット民のひとりなのだろうなと思います。ただ、今後どうなるかは分からない。インターネット自体がどんどん変わっているし、実名だったり顔出しだったりで活動する時が来るかもしれない。烏滸がましいけど、もしそれで何らかの結果を出して意見が通りやすい立場になったとして「匿名の何も産み出さないアンチが偉そうに意見してきやがって、正々堂々と実名顔出しで結果出して意見してみろよ」みたいなマウント取るようには成りたくないなと思ってしまう。なんか恥ずかしいから。まあ結局こんなの立場変われば考え方も変わるんだけど。人間なんてそういうもんよ。


追記
この記事書き出した時は「誹謗中傷を止めるためにネットを実名性にしろ」って流れや「匿名性を利用して好き勝手言ってくるアンチがムカつく」って意見にモヤモヤしてたんだけど、最近また世の中で告発ブームが起きてたり、SNSやメディアの存在自体が揺らいでいるので時代の変化が速くて戸惑ってます。何かを語ろうと纏めてる間に状況が変わるとほんと話の着地点が分からなくなって迷走してしまいますね……。個人的には善悪や感情論に走って規制かけると混乱を招きがちなので慎重にバランス取ってほしいなって結論にしとこうかな。

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