【小説】募金
最近、コンビニのレジ前にある募金箱に小銭を放るのが趣味だ。友人は照れ隠しからか、同じことをしたとき、
「なに、財布が小銭でパンパンだからよ。処理だよ処理」
などと嘯いていたのをふと思い出した。なにはともあれ善意のひとかけらもない人間だったら募金箱には『処理』しないだろう。あれはあいつなりの優しさだったのだろうと思う。知らんけど。
「お兄さん、若いのに募金が趣味なのかい? 変わってるねえ」
レジ打ちの爺さん──最近では外国人が増えたコンビニバイトでは珍しい──の不思議そうな声がする。流石に会計のたびに欠かさず募金し続けていたら控室でも噂になるんだろうか。
「ええ、ちょっとした善行を積んでおかないと天国に行きそびれそうでね」
「おいおい! それじゃあ先におっ死ぬ俺はどうなっちまうんだよ!」
ガハハと豪快に笑う気のいい老人は、言葉とは裏腹にいつまでも生きていそうな活力を感じさせるのだった。
「なんかの仏教ではあるじゃないですか、そういうの。まあ反対に悪人正機説なんて教えもありますけど。あれはどうにも嘘くさくてかないませんよ」
「何百年も前の人間に愚痴ったってしょうがないだろうに。まあそうだな、たしかに悪人は地獄に、善人は天国にが基本だろうな」
「そうなんですよ。でも僕のこの募金は違うのかもしれません。正義とか悪とか、そんな大きなものじゃなくて、社会に認めてほしいのかも」
「なにも金を寄付したからってそう簡単に評価されるってものじゃないだろう。いったいどうしたいっていうんだ」
「僕はお金くらいしか持っていませんから。社会に対して僕はあまりにも無力です」
「そういうな若者よ。価値はこれから見出して行くもんだろう。この募金はその布石ってことにしときな」
「ええ、じゃあそうしますとも。ありがとうございます」
そう言って僕はさることにした。一体何の問答だったのか自分でもよくわからない。でもこれだけは言っておかないと。
「おじいさん」
「なに、どうした」
「レジ、詰まってますよ」
※即興小説トレーニングに過去投稿したものです。
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