僕らは皆んな21歳
僕の部屋のインターホンを鳴らした人物は、中学の頃の同級生だった。
「ちょっと人殺しちゃったから、埋めるのを手伝ってくれないか?」
ーえ、なにその「ちょっと車のタイヤ溝に落ちたから助けてくれない?」くらいのノリなの?ガソリンスタンドで働いていたからか、数人から車関係のトラブルを押し付けられた昔のトラウマを思い出した。 え?この話は関係無い?ああ、そもそも他の人には伝わりにくいか。この例えは。ああ、申し遅れました。僕は高専の専攻科に通っております、整備士志望の鈴木達郎(すずき たつろう)と申します。ただのしがない若者ですが、たった今面倒事に巻き込まれてしまいそうです。
「……もし断るって言ったら?」
「拒否権は無い。」
ガチャリ、と彼は拳銃を僕に突きつけた。おい、止めろ。銃刀法違反だぞ。殺人と死体遺棄に続いてこれ以上罪を重ねるな。田舎のお母さんが泣くぞ本当に。
「……わかったよ」
だけど、いくらなんでも僕も命は惜しい。本物らしい拳銃を目の前に、僕は偉そうな心の声とは裏腹に、そう返事をした。
彼は明らかに何かを隠している瞳をし、緊張からか不自然な汗をかいていた。きっとこのまま彼に逆らえば、僕も殺されてしまう。と、責任を彼に押し付け、犯罪の片棒を担ぐことになってしまった。
「…どこにあるの?」
「車のトランク」
今すぐこい、と短く彼が言うと、僕は簡単に身支度を済ませて部屋の鍵を掛けた。ああ、田舎のお父さんお母さんごめんなさい。僕は重い足取りで駐車場へ向かうと、隣の部屋から爆笑している複数人の声が聞こえた。
窓から隣の部屋を見ると、同じクラスのリア充男女数人が、楽しそうにパーティをしていた。
ああ、羨ましい。僕は今から死体を埋めるかもしれないのに、コイツらはお酒をつまみながら楽しい夜を過ごすのか。今は遊び盛りでお酒も真新しく楽しい時期なのだろう。同い年なのに、どうしてこうも人生が違うんだろう。
僕はクラスメイトのあいつ等に呪怨の念を込めながら、彼の車へ乗り込んだ。偶々なのか、彼の車は僕の使っていない駐車場スペース(この寮では1人2つの駐車スペースが割り当てられる)に置かれていた。高卒の3年目にしては頑張っているくらいの値段の軽自動車だった。
彼は運転席に乗り込み、僕は隣の助手席に座る。
「なあ、後ろに乗っているの、誰?」
後ろに積んでいる死体の出処が気になり、ふと僕が問いかけると、ガシャン、と拳銃をセットした彼が小さく答える。
「井上だよ」
「い、井上か」
井上。
彼と同じ高校で、僕と今でも仲の良かった友人だ。 本当は「はああああ!?」と驚き、何故井上を殺したのかを問いただしたい気持ちでいっぱいだったが、平然を装いシートベルトをつけた。拳銃を持ち、友人を殺した彼がマトモとは思えない。僕は彼を刺激しないように、ただひたすらに泣きたい気持ちを抑えた。
時刻は23時45分。 彼は長い長い公道を走りながら、僕達の母校の中学にたどり着いた。
「降りて。」
「うん」
彼が後ろの座席からスコップを取り出すと、僕はトランクを開けた。
「……井上」
本当に本物の井上だった。眠っているように、横たえた井上の死体を見ながら、僕は静かに泣いた。
「……っ、」
僕がトランクを開けていることに見向きもせず、何やら彼はガサゴソと後ろの助手席から何かを取り出している。ああ、本当に僕等はこいつを埋めてしまうのか。
せめて埋めた後は警察に自首をしよう。そうすればこいつの死だって無駄じゃない。
僕が覚悟を決め、せめて最後に合掌だけでもしよう、と手を合わせていると、チカッ、と何かが光っている様な気配がした。
~♪♪テッテレテッテレーテッテレーテッテレーテてれれんれんテッテレ☆~
途端、僕の追悼の気持ちを散らすような、軽快な音楽がどこからか流れた。
「あ、やべぇ。俺だわ」
「は?」
先程死体だった筈の井上が、何故かトランクからムクリと起き上がり、スマホのアラームを消した。は?
すると、先程から後ろの助手席にいた彼が、咳払いをしながら、小さな光を携えて、近づいてくる気配がした。
「……ハッピバースデートューユー」
「…ハッピーバースデートュゥユー」
「「ハッピーバースデーディアたつろうぅ~」」
「ハッピーバースデぇー・・・トュゥぅユー~」
彼がスコップを邪魔くさそうに抱えながら、光を灯した小さなケーキを運んできた。井上と彼が僕に近寄り、 「本日の主役🎂」のタスキを僕にかけ、ニヤニヤとしながらスマホで写真を連写した。
「っ……ふ、ふざけるなあああああああ」
時刻は24時02分。おめでとう僕。どうやら今日は21歳の誕生日会らしい。
(若者がただサプライズ誕生日会をするだけの話)