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【天皇杯分析⑵】ヴィッセル神戸−戦術の結実と課題−

この記事は、前記事「【天皇杯分析】30年古い鹿島と新しい戦術への展望」の続きである。本記事では、前記事でも取り上げた前半における神戸の戦術の優位性に関して振り返りつつ、後半45分の戦い方とそこから見えてくる神戸の試みの結実と課題に関して分析する。

前記事では、戦術的な優位性を活かした神戸が2点を決め、勝負を分けた前半について分析し、鹿島の戦術的な問題点と今後の展望について記しました。もしよろしければ、こちらもあわせてご覧ください。

【前半での神戸の戦術の優位性】

ここでは、前記事でも見た前半における神戸の戦術的な優位性を簡単に振り返る。

スクリーンショット 1.立ち上がり

上の写真は3分の図。いつも通りの、4-4-2を敷く鹿島に対し、神戸は3-4-3のシステムを採用している。立ち上がり、それぞれの陣形が整ったところで、すでに神戸の戦術の優位性は見え始めている。
赤で囲んだ両WBはワイドレーンでフリーになっている。鹿島の両サイドハーフは中央に絞り気味にWBとボールをもらいに降りてくるシャドーの2枚を監視する形になる。中央を締めて、サイドに出させた後に潰すのが鹿島の狙いだったが、前半を通して上手くいかなかった。逆に神戸は、イニエスタ・山口からボールを受けた両WBがシャドーと良い関係性をつくりながらサイドで起点になる攻撃が構築できていた。

スクリーンショット 8:48 スペース

上は8分の局面。神戸は3バックをしくことで、鹿島2トップのプレッシャーを簡単に回避している。1人余ったCBがスペースに進入しつつ、鹿島の中盤に対して数的優位を作りながら、サイドで起点をつくる。あるいは、ライン間でイニエスタ(山口)がボールを受けて、ワイドに展開するか、DFの裏を狙う。
前半はこの形から何度も決定期を生み出し、実際に1点目も2点目もこの形から生まれている。

スクリーンショット 4. 伊藤の判断

1点目の起点となったシーン。3CBに対して、鹿島のプレッシャーは上手くかからないため、CBは自由に球出しができる。イニエスタがライン間に降りて受けにいき、ワンタッチでWBの酒井に捌いたことが得点につながった。
2点目もサイドでフリーになっていたWBの西が起点となっている。

神戸にとって、システム上の優位性を活かしたプラン通りの前半だったと言えるだろう。

【鹿島のシステム変更と後半の展開】

しかし、後半に入ると神戸のシステム上の優位性は一旦失われる。
鹿島が後半に入って、3-4-3にシステムを変更したからである。これにってミラーゲームに近い形となり、後半は2点を追う鹿島が攻め込む時間が長くなっていった。

スクリーンショット 1.後半立ち上がり

上は後半開始直後の図。鹿島が3-4-3の形をとっているのがわかる。これによって、3CBにプレッシャーがかかりやすくなり、神戸WBも前半に比べフリーになりずらくなった。
また、後半から鹿島が攻撃のリンクマンであり、状況把握にすぐれる土居を投入したことで、アタッキングサードまでいく展開も増えた。

これに対し、神戸は後半はどのようなプランだったのだろうか。
フィンク監督はハーフタイムのコメントで、「守ってからカウンター」と口にしている。つまり、前半のようにポゼッションを握りつつ試合の主導権をとる試合運びでなくてもよい、ということである。そして、試合はフィンク監督が口にした通りの展開になったのだった。

シュート数だけ見ても、前半は神戸8・鹿島2だったのに対し、後半は神戸3・鹿島7になっている。後半は鹿島に攻め込まれる展開だったことが明らかだろう。

【神戸の戦術の結実と課題】

フィンク監督のこのプランと神戸の後半に関して、評価は様々に分かれるだろう。

結果的には、前半の2点差を守りきったのだから、ポゼッションをある程度捨てつつ、守ってからのカウンターで良しとしたのは成功だったとも言える。リーグ戦でも時折露呈していた90分ポゼッションし切ることの難しさからの判断なのか、あるいは鹿島の得点力から見て、それで守り切れるとの判断なのかはわからない。おそらくは両方であろう。その点で、ポゼッションにこだわらず、守備を固めつつ2点差を維持する実をとったフィンク監督の采配は評価されるべきである。
また、前述したように後半鹿島に攻め込まれる時間が増えたのは、鹿島が3-4-3にシステム変更したことで、システムのミスマッチが解消されたことによる。これは、4-4-2にこだわりを持つ鹿島にとっても奇策であり、実際練習で一度も試したことのない形だったと選手は語っている。(そもそも、相手の3-4-3に対しての対策が十分ではなかったことが問題なのだが。)
神戸にとってもこのシステム変更はプラン外だったかもしれない。しかし、鹿島がハーフタイムを経て何らかの策を講じてくることは明白であり、それを受けたうえでカウンター、というフィンク監督の判断は非常に合理的なものだ。

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この試合、後半も付け焼き刃のシステムで鹿島はアタッキングサードでのアイデアと決定力を欠いていた。しかし、後半に主導権を握られていたことには変わりなく、一歩間違っていれば鹿島に得点を許していた可能性もある。押し込まれた状態で1点差になれば、一気に流れが鹿島に向かう可能性もあった。
とりわけ、鹿島に押し込まれる時間帯は3CBの最終ラインはボックス付近まで後退し、WBが最終ラインに吸収される時間も長かった。その結果さらに鹿島にプレッシャーがかかりづらくなり、仮に奪ったとしてもカウンターにつなげられない。
実際、フィンク監督は後半、テクニカルエリアぎりぎりから、ラインをあげるように再三指示を送っていた。
この、90分間ポゼッションし切ることができず、ラインがずるずると下がってしまうという問題は、天皇杯決勝の舞台だけでなくリーグ中から垣間見えていた問題だろう。今期の神戸は後半に失点するケースが多く、それによる勝点のとりこぼしも多かった印象がある。
いかに、90分の間、自分たちのスタイルを貫けるか、あるいは相手に対応された際に下がって受けきれる守備強度を備えるのか。課題として見えた部分も大きかった。

【今後の展望】

とはいえ、後半に2点を守りきり、優勝に輝いたのは神戸にとって本当にポジティブなことだった。フロントから、選手まで自分たちがやってきたこと、スタイルが間違っていなかったことを感じることができたからである。この優勝経験が神戸に多くのことをもたらしてくれるだろう。くしくも、鹿島がそうやって常勝と呼ばれる伝統を築いてきたように。
足元に優れ、果敢な飛び出しでDFラインの裏を埋めるキーパー、安定して守備とビルドアップをこなせるセンターバックなど、自分たちのスタイルのために確実に必要だった補強ポイントに選手が到着し、時間を経て、そのスタイルと戦術は結実しつつある。

今期の終盤戦と天皇杯優勝は強くそれを印象付けることとなった。数年をかけて大小様々に取り組んできたクラブの方針がやっと実を結びつつある。来季は初のACLを戦うことになる。アジアの舞台でどのように自らのスタイルをつらぬき、本当に自分たちのものにしていくのか、あるいは監督や選手によってそのスタイルを変化させていくのかーーこれからも注目していきたい。

【参考】
前回と同じく、戦術的な面では、西部謙司さんのいくつかの著作を参考にさせていただきました。
とりわけ、『サッカー戦術クロニクル0』(カンゼン、2017)、『4-4-2 戦術クロニクル』(同)を参考にさせていただきました。
また、画面キャプチャに関しては購入したNHKオンデマンドの画面のキャプチャを著作権法に則り、引用の形で転載しました。以下にリンクを示します。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2019104512SC000/index.html

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