LEFT IT BE
去年「へそで、嗅ぐ」から入っていただいた制作さんのおかげで、今も徐々に、私が細々とやってきた制作作業が手から離れていく。総勢5人ほどで回してくださるので、何とも心強い。それでも制作作業を全てこなして時計を見ればお昼だ。ここから台本の作業をする。全てを捨て置いて創作だけに専念できればとは25年前台本を書き始めた頃から願っていることだが、なかなか自分の脳が許さない。結局この作業にずいぶん、依存してきたのだなと思っている。でも「本業じゃない」と言い訳できる仕事はクオリティが低い。だからお任せしてしかるべきなのだ。制作でミスをすると迷惑を被るのは8割型お客さんなのだし。そうやって手から離れたはずの仕事、例えば劇場さんとの書類のやり取りなどをふと眺めてみると、もう自分の戻る場所がないことに気がつく。なにこれ、こんな高度なこと、私、やってたの?と思う。まあ、やれてなかったんだけど。
下の子が1歳9ヶ月になり「顔を見れば抱っこorおっぱい」から「姿を見ればストーキング」に変わってきたので、朝起きたら夜ご飯を仕込めるようになってきた。夫も隙あらば家事をするので、下の子は私と夫と息子の間をゆらゆら動きながら、楽しそうに朝を過ごしている。こんなふうにそばで遊んでくれるのも、今だけなのかなと思うと愛おしくて抱きしめまくってしまう。娘は結構冷めた顔で「いや」と言う。それがまた可愛くてたまらない。娘の人生も私の本業ではないので、どんどん引き渡していく。手伝いの許可や申請が降りたところだけ頑張らせてもらう。今のところ娘は、ほぼ自分でやりたがり、自分でやると大体、現場がえらいことになるが、お掃除をさせてもらうのは嫌いじゃない。
上の子ともそのように5歳まで過ごした結果、今では大体ほとんど自分でやるが、やりたくないこと、やられたくないことにたいする拒否感はすごい。なぜやったほうがいいのか、とにかく話し合いの日々である。特にお着替えとお風呂。歯磨きや起床は得意なんだけど、なぜお着替えとお風呂が嫌なのか。ま、わかるけど。それにしても、5歳の今も本当にかわいいままだ。「かわいいのは喋り出すまで」と言う先輩方のアドバイスは全く頓珍漢でしたよ。
そしてPLEASE PLEASE EVERYONEの振り返りもそこそこに、次の作品の創作である。まだまだぼやっとしているので、ちょっとずつちょっとずつ解像度を上げているが、そろそろ出演者に渡さないとまずい。現場は振り付けの足立七瀬さんにお任せしっぱなしである。でもいてくださるのでありがたい。本当に。動きをお渡ししてみて気が付いたのは、これも私、自分でやろうとしてたな、と言うこと。そして、やれてなかったなと言うこと。でも本業じゃないから、以下同文。
作曲の増田さんとは1回目のミーティングを経て、具体的な提案をいただき、それをヒントにさせてもらっている。本当に本当にありがたい。作曲は趣味でやっているし、興味があるから楽しいんだけど、だから作曲家を頼まない、と言う話ではない気がしている。増田さんは作品に対して、もっともっと高い観点からの役目を担ってくださるから。
創作を盛り上げるためにかいたnoteなので、あえて書くと、今回は、死者の声を聞くことをテーマにしている。戦争や殺し合いは、生き残った人によってしか語られない。死者は喋らないので、死んだ人の語る戦争を、私たちは知らない。と言うわけであえてその死者の言葉を聞く芝居にしたいと思っている。文学や舞台芸術は死者の言葉をつむぐ役目を果たしているから、ある種当たり前のことなのだが、それをどうやって、どう言う文法で語るか。
また、先日、「家へ帰ろう」と言う映画を見て、改めて、一人の人間にフォーカスするとドラマは見やすくなるのだな、と言うことを思った。当たり前のことに感動する私を夫が笑った。でも私、みんなにとっての当たり前を受け入れるのにどうもすごく時間がかかるみたいで、でもそこが私のよいところだと思っている。
「家へ帰ろう」は本当によかったです。スペイン語があまりに心地良くて、たまらなかった。家族の中では頑固でわがままな老人に見えるのに、旅をする中で次々に他人と良好な関係を結んでいく主人公。大きな運命に人生を振り回されてきた過去があって、あの厄介な空気の理由がわかり、母を想ったりなどし、・・・たいそう泣きました。でもわたしにああ言う、結果ハートフルなユーモラスなお芝居、作れるだろうか。羨ましい。
今、私は実は、血の繋がった人たちと、新しい仕事をしている。血はつながっているが、たとえ二人きりでも敬語で話し、その距離感は縮まらない。私はそのことが大そうありがたい、と思っている。「家へ帰ろう」のよかったのは、主人公を助けるのが、全て他人だったと言うことだ。血の繋がるもの同士は、その距離感ゆえに、敬意を失いがちだ。でも距離さえ保てたら、強力な仲間となりうる。他人同士もまた、距離感と信頼。
重要なのは手放すこと。つんつるてんになってもよし、と思うこと。だって元々、つんつるてんで生まれてきたんやもんなあ。
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