失恋記念日

#小説 #失恋 #失恋記念日

スマートフォンの画面が光り、メッセージが来たことが分かった。
ネットをする事が主になっているこの箱に、誰かから連絡が来ること自体が珍しい。
送信者の名前を確認し胸の鼓動が高鳴った。
恐る恐る内容を見る。

「先月に無事、式を挙げました!その時の写真だよ!」

旦那さんと写る幸せそうな顔。
私の大好きな、本当に大好きなとびきりの笑顔がそこにはあった。
「苗字が変わるよ」と数ヶ月前に連絡を貰ったことをぼんやり思い出した。

貴女との出会いは中学の時。
ただのクラスメイトという関係で、未だに住所も好きな食べ物も大して知らないのに、いつか交換したメールアドレスが、今でも繋がりを許してくれている。

届いた写真の中の幸せそうな貴女の笑顔を見ていたら、涙が溢れていた。
本当に幸せそうなこと、その幸せをただのクラスメイトだった私にも教えてくれたこと、そして同時にその幸せを心から喜べない自分自身の心の小ささが悔しくて涙が止まらない。

社会人になった年の夏休み、貴女の運転で田舎道をドライブした。
雲ひとつない、空がとても青く暑い日だった。
貴女は運転をしながら松任谷由実の「飛行機雲」を口ずさんでいた。

私は隣でずっとドキドキしていた。
上手く話もできなくて、貴女には退屈な時間を過ごさせてしまった事を今でも反省しているのだけど、私の中でずっと色褪せない、寧ろ月日とともに強く心に染み込んでいくあの時の時間。
今でも昨日のことのように思い出せる。

中学のクラスメイトから、もう10年間の月日が流れ、貴女は苗字も変わりウェディングドレスに身を包み最高の笑顔でいる。
私はビルしかない土地に身を移し、あの夏の日を思い出しては貴女への想いを募らせている。

届いた写真の貴女の笑顔が美しく、でもそれは私に向けられたものではないことが悔しくて悲しい。
私は自分で思っていた以上に、貴女の事が好きだったみたいだ。

「おめでとう。2人で幸せになってね。本当におめでとう。」

涙を拭いて返信を打ち、とりあえずお風呂に入り、改めて貴女からのメールを見たらやっぱり泣けてきた。
幸せになってくれて嬉しい、でも私じゃなかった。
貴女を幸せに出来るのは私ではなかったという現実がそこにはあった。

目をつぶれば、セーラー服を着て黒髪を揺らしながら廊下を走る貴女の後ろ姿が、そしてあの日口ずさんでくれた飛行機雲のフレーズが頭の中に流れ出す。

私はずっとセーラー服を着たまま中学校の廊下から動けないでいる。
思い出は色褪せない。
日に日に色は濃くなり胸に染み込んでいく。

私がいま住むこの町では、空はビルに邪魔をされて上手く見えない。
貴女が今でも住んでいるあの場所を、あの日見た空と山の青さを、そして貴女の横顔を思い出しては悲しくなり、私は中学生の自分の隣で足を止め2人して動けないでいる。

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