明かりの灯る森
夜になると無数の明かりが灯る森があるという。
その森には沢山の生きものが住んでいた。
動物や植物…そして、こびと達。
それぞれがみな共に支え合い生きていた。
森に住むこびとには彼らにしかできない大切な役目があった。
夜になると森に明かりが灯る。
これはこびと達の大切な仕事だ。
毎晩こびと達は森のあちこちに小さな明かりを灯す。
それは外の世界に住む人間には見えない小さな優しい光。
こびとはこの森でこの大切な役目を担っていた。
夜に森を明るく照らしてしまっては
ここに暮らすものたちが眠りにつけない…
そう考える者もいるだろう。
だが違う。
夜眠るものはその小さな優しい光に包まれながら眠りにつき
夜眠らぬものはその明かりを頼りに行動をする。
こびとが灯すその光はこうしていつも
みんなを照らしていた。
こびと達もみなこの役目をとても誇りに思っていた。
毎晩毎晩、森に明かりを灯す。一日だって忘れたことなどない。
そう。
森に明かりが灯らない日は今まで一度もなかった。
あの日までは…
その時はある日突然やってきた。
…山火事だ。
こびと達の住むこの森が大火に見舞われたのだ。
激しく燃え盛る炎に、泣き叫び逃惑うものたち。
みんなに声をかける為こびと達は森中懸命に走り回った。
しかしこの大火はいとも簡単に
みんなの愛する森を愛するものを奪っていった。
居場所を日常を命を、みんなから
奪ったのだ。
どれほど経ったろうか…
全てが跡形もなく消え、森があった場所には
灰だけが残された。
傷を負ったものも大勢いた。
亡くなったものも…
この出来事は燃え尽きた灰と同じように
生き残ったものの心に暗く覆い被さっていた。
掴んでも崩れる灰のような心には
もはや一つも明かりは灯っていなかった。
そしてみな言葉もなくただ地にのまれるように項垂れていた…
と、その時だった。
ある一人のこびとが叫んだ。
「ない…明かりが灯ってないぞ!」
そしてそのこびとは明かりを一つ、灯した。
「ワシらの役目は明かりを灯すこと…そうじゃろ?」
すると一つ…また一つと他のこびと達がそれに続き
静かに明かりを灯し始めた。
そして光がいくつにもなった頃、こう続けた。
「心の明かりまで消してはいかん…どんなことがあろうとワシらは明かりを灯し続ける。それが我々こびとの役目なんじゃ。」
それを聞いていたもの達がその言葉に顔を上げ
こびと達が灯すあの優しい光をじっと見つめた。
そのもの達の心に次第に小さな明かりが灯り始める。
ゆっくりと一つずつその数は次第に増え
優しい光がどんどん強くなったその時
こびと達が叫んだ。
「よし、行こう!」
彼らは新たな森を探す旅へと出発した。
自分たちの居場所にまた明かりを灯すために。
そして今度こそ明かりを絶やさぬように。
その小さな優しい光たちは列をなして
今、動き始めた。
(1,130文字)
***
こちらに応募させていただきます。
今回のテーマ「あかり」を考えた時
やはり現在の世の中の姿が浮かびました。
2020年から続くこの困難な状況については
残念ながらまだ終わりが見えていません。
居場所や日常、そして命…
私たちが失ったものは数えきれず
戻らないものの大きさを痛感しました。
しかし、だからといってこのままでいられないのは
生きるもの全てに備わっている「何か」があるのではないか?
そう思った時、今回のテーマとの繋がりを感じました。
明かりはもともとこの森に住むみんなの支えでした。
しかし色んなものを失ったことで
心の明かりまで消えてしまいそうになります。
実際の世界でも人は何度も何度も明かりが消えかけました。
いや、消えてしまったこともあったでしょう。
けれどこびと達は諦めません。
また小さな明かりを灯すんだ。
またここから全てを始めるんだ、と。
今はまだどうなるのか分からず不安なことも多い世の中ですが
こうしてこびと達が始めたように
小さくたっていい、まずは明かりを一つ灯して
みんなでまたここから始める。
そんな風に生きていけたらと
願っています。
***
審査員の皆さま。
お忙しいとは思いますが、お身体には十分お気をつけて
何卒よろしくお願い致します🐨
では無事投稿も終えたことですし
これでやっとみなさんの応募作品を
ゆっくりと読みに行くことができます!
楽しみ楽しみ~♬
ではまた。