【映画レビュー】最速『幾多の北』の感想!“かつてない”長編映画ってこういう作品のことを言うのかも......!
新千歳空港国際アニメーション映画祭2021鑑賞作品です。
山村浩二監督最新作『幾多の北』の感想
『パクシ』『頭山』『カフカ田舎医者』などなど短編アニメーション界におけるビッグネームである山村浩二監督が、今回初の長編映画に挑んだという『幾多の北』を観てきました。
第8回新千歳空港国際アニメーション映画祭の長編コンペティションのノミネート作品にして、審査員特別賞を受賞した作品。今回の映画祭での上映がワールドプレミア上映となっておりました。
私が観たのは2回目の上映回。すでに1回目を観た人たちからは、なかなか飲み込みづらいものが出てくる気配を感じさせましたが、観てきた感想をざっくり一言で言うと……
仰天!
あまり観たことないというか、いや、全く観たことないような“長編映画”体験がそこにはありました。
もっと詳しい感想を書いていきます。
予習必須!?シリーズものではないけど一見さんお断り映画?
TVアニメシリーズの続き物の映画とか、前章となるような原作踏まえておかなければいけない映画とかを私はよく“一見さんお断り映画”と称しているのですが、この映画にはTVアニメシリーズはもちろんなければ、本作は山村浩二監督自身が手がけた、2012年4月〜2014年12月まで雑誌の文學界の表紙イラストをベースとしたオリジナル作品です。
普通は“一見さんお断り映画”とはならないはずの映画なのですが、私はこれを“一見さんお断り映画”に括りたい。
なぜなら、山村浩二監督のこれまでの短編のテンションをそのままに長編化したアニメーション詩となっていて、それを踏まえないまま観るのには体力を要する作品となっているからです。長尺に耐えられるように飲み込みやすくなんて甘いことはしない硬派の極地のような映画でした。
逆を言えば、これまで山村監督の作品を、意外とすんなり受け入れられるかも。例えば、本作は、順に奇妙な状態に陥っている人たちを巡っていくような形式で展開される物語。“どうかしちゃってる人たち巡り”の映画と分かったら、監督の直近作で形式が似てる自作妖怪図鑑『怪物学抄』を思い起こさせて、「あれの長編版か!」と個人的には一気に鑑賞が楽になって楽しめました。
また、本作ではウィレム・ブロイカー氏の音楽をベースに物語を巡っていくのですが、音楽に合わせて描いていく様は、本作より先行してウィレム・ブロイカー氏をフィーチャーしてる『サティの「パラード」』をおさえておくのがオススメ。ある意味、『サティの「パラード」』の長編版のような見方もできるのではないでしょうか。
『幾多の北』の“北”とは何か?
ただ、やはりこの堂々巡りの人々をもって、何を描いているのかはつかみきれないところも確か。人生とは「こう」であると極地に至れないからこそ歩みを進めていける部分を描いたような作品なのかな、ともぼんやり思っています。
実際は、新千歳空港国際アニメーション映画祭の「マスタークラストーク『幾多の北』はどう成立したか?アニメーション作家」で“北”の真意について、山村浩二監督が自身が語ってくれていました。
“感情的な意味の「北」”というのが面白くて、右や左だと思想感が出てきますが、こうして「北」と表現されると、その真意が別の雰囲気がありますね。
山村監督が本作で挑戦した物語の描き方
そして、より具体的にどういう映画に作ろうとしていたのかも以下のように語っています。
監督自身も明かしている通り、狙って“普通じゃない”物語が描かれています。因果を見せないで長編映画を成立させることはできるのか、という命題があるとしたら、この『幾多の北』が答えの一つに上がってきそう。作中に登場する数多の北たちの今……にどんな背景があって、どんな未来が待っているのか。意識的に“コラージュ”されていると思ったら、「よくわかんない」感じになるのは止むを得ないところです。
しっかり引っ張ってくれるのはそのビジュアル
ストーリーも掴みにくく、長編アニメ映画では珍しいぐらいに動きが少ない作品ということで、「アニメーションなら動いて欲しい!」という人には物足りない映画だとは私も思うのですが、それでも、さすがだなぁと思ったのがキャラクターデザイン。
北巡りをするデカい羽ペンを抱えた二人を始め、出てくる珍妙なやつらの侘しさを伴うチャーミングさが良いのですよ。正直、そこは圧倒的な突き抜けた独自のセンスを持っているので、本作のタッチが刺さったという点でも私はポジティブに本作を観れたのかもしれません。
2021年11月末現在、『幾多の北』の全国上映情報などは発表されていませんが、山村監督の長編ということならおそらくどこかのタイミングで実施されるはず。現在兵庫の第2回龍野国際映画祭でも公式招待上映とクロージング作品にも選ばれているということで、映画祭などでもボチボチ観る機会が出来きそうです。
割とポジティブに受け取れた側の一人として、これから観る人の手引きに少しでもなれればと思います。
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