さようならセカイ系?“セカイ系は”死語になったのか
こんにちは。
アニメ映画ライターのネジムラ89です。
1月のマンスリーテーマとして『“セカイ”と“ワタシ”とアニメ映画』を設けていながら全然それに準じた記事がないじゃないか!とツッコミを入れられそうなので、そろそろそれに呼応した作品の話をしていこうと思っています。
なぜ今月このテーマを設けたかと言えば、2021年1月はやはり『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開される月であるから。
せっかくなのでエヴァの話をたくさんできるようなテーマにしておきたいなぁと思ったからです。何を隠そう、エヴァンゲリオンといえば“セカイ系”というジャンルを生み出すきっかけとなった作品だからこそ。
ただ、今更ですが“セカイ系”ってなんなの?って人も多いはず。
00年代以降、アニメ・ゲーム・漫画などでよく多様されていた作品ジャンルのようなものなのですが、そもそもこの“セカイ系”って言葉自体がすっかり死語になりだしてるのですよね。
今一度セカイ系とはなんだったのか。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開に合わせて考え直してみるのも、良い機会でしょう。
セカイ系とはなんなのか?
セカイ系とは何か。
セカイ系という言葉を使う上で、実は難しいのがその定義づけ。
散々使われてきている言葉でありながら、その定義が実ははっきりしていない言葉です。
セカイ系という言葉のルーツを探るには、前島賢さんの『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』にそのルーツが詳しく書かれています。
元々「セカイ系」という言葉は、WEBサイト・ぷるにえブックマークの管理人である、ぷるにえさんがサイトの掲示板のスレッドに投稿した造語であるとのこと。彼の書いた「セカイ系って結局なんなのよ」という投稿がきっかけで生まれた言葉です。
●「セカイ系のまとめ」
・ぷるにえが一人で勝手に使ってる言葉で、大した意味はない
・エヴァっぽい(=一人語りの激しい)作品に対して、わずかな揶揄を込めつつ用いる
・これらの作品は特徴として、たかだか語り手自身の了見を「世界」という誇大な言葉で表したがる傾向があり、そこから「セカイ系」という名称になった
引用:『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』
元々の定義は、エヴァっぽい作品で一人語りが多い作品のことを指す言葉だった......らしいのですが、必ずしもこのルールに則った言葉として使われているのではないのが実情。
評論家の宇野常寛さんが当時運営していたWEBサイト「惑星開発委員会」で挙げられていたセカイ系の定義は以下のような感じ。
又の名を「ポスト・エヴァンゲリオン症候群」。
「社会」や「国家」をすっとばして「自分のキモチ」なり「自意識」なりが及ぶ範囲を「=世界」と捉えるような世界観を持つ一連のオタク系作品がこう呼ばれているらしい。
例えば「ほしのこえ」例えば「最終兵器彼女」。
引用:『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』
より辞書的な表現にはなっているものの、ぷるにえさんの意味に近いニュアンスではあります。
いずれの意味でもやはり『新世紀エヴァンゲリオン』という作品の存在が大きい言葉なのがわかります。
日本のアニメーション史において、『新世紀エヴァンゲリオン』の登場が重要な意味を持つとよく言われます。その理由が、まさに「セカイ系」という言葉が生まれるほど、後世の作品に影響を与えるに至ったからなのですよね。
『エヴァ』以前はセカイ系はなかったのか?
ってことはエヴァ以前はセカイ系に類する作品はなかったのかというと、漫画家の山田玲司さんが面白いことを言っています。
山田玲司さんの自身のチャンネル“ディスカバリーレイジチャンネル”で、セカイ系を取り上げてくれていて、“セカイ系”の説明に80年代後半のTHE BLUE HEARTS「NONONO」という曲を例に挙げています。
セカイ系とは“自分中心”。
僕と僕の大事な人たち......あとはいらないっていうさ
それがセカイ系の考え方。
引用:https://youtu.be/jC37nXMMEbM
よりエヴァという文脈がなくとも成立するセカイ系の説明をしており、90年代以前から内在していた“セカイ系”の考え方を明快に捉えてくれてます。
結局、セカイ系というマインドみたいなものは、ぷるにえさんが言語化する以前から存在していて、『新世紀エヴァンゲリオン』というトリガーをきっかけに爆発した......もしくは形を成し得やすくなったというのが正解なのかもしれません。
セカイ系という言葉を聞かなくなった?
こうして「セカイ系」という言葉で括られて、様々な作品が語られていた時期があったのですが、主に中心となっていたのは00年代。
最近はあまり「セカイ系」という言葉が以前ほど使われなくなったように感じます。
10年代以降もセカイ系に類する作品は多数存在していると思っているのですが、10年代以降からアニメーション自体の一般層に浸透もどんどん加速し、アニメやゲームが語られる場が拡大している分、相対的に“セカイ系”として語られる場が小さく感じられるのかもしれません。
だからこそ、『君の名は。』や『天気の子』みたいなTHEセカイ系みたいな作品が登場するたびに、アニメが浸透しているはずなのに通じないみたいな居心地の悪さがあるんですよね。
というか、青春恋愛物とかロボット戦争物という括りならわかりやすいですが、“セカイ系”なんて言っても、ニュアンスを知っていないとわからない単語が浸透するはずなく、一部の人間にしか理解し得ない専門用語でしかないんですよね。そりゃあアニメがこれだけ市民権を獲得しても、聞かないはずなんですよ。
セカイ系はこうして生き残っている
セカイ系という言葉が現れにくくなったのには、それに代わる言葉が生まれてしまっているのも大きいです。
代わりに生まれた言葉が「異世界転生物」。
10年代以降は、現代人が異世界で第二の人生を送る“異世界転生物”というジャンルが流行しまして、セカイ系としてよりも異世界転生物としてジャンルが語られることが多いのですよね。
厳密には異世界転生物も、セカイ系に類する作品なのですが、あまりにもこのジャンルに類する作品が増えすぎているのが昨今。もはや異世界転生物は、セカイ系の中のジャンルの一つというよりも、“セカイ系というジャンルが進化した現在の状態”というのが正解なのかもしれません。
そんな訳で、これだけアニメが浸透してもオタクの専門用語にしか過ぎず、異世界転生物としての地位の方が確立してしまっているのが20年代の“セカイ系”という言葉の状態です
エヴァが終幕を迎えるこのタイミングで改めて、アニメ映画の視点を中心に『“セカイ”と“ワタシ”とアニメ映画』と題してセカイ系の今を追求して参ります。
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