「ネットに個人情報を流さないように気をつけよう!」と言う時代は終わった!?『竜とそばかすの姫』の感想
本日より公開スタート!我慢できずに公開日に行ってまいりました。
『竜とそばかすの姫』のざっくりとした感想
細田守監督によるスタジオ地図映画が3年前の『未来のミライ』ぶりに劇場に帰ってきた!『竜とそばかすの姫』を観てきました。
竜とそばかすの姫
製作年:2021年 / 製作国:日本
スタジオ地図製作
監督・脚本:細田守
『時をかける少女』、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、『バケモノの子』、そして『未来のミライ』......と異常なほどのハイペースで劇場長編オリジナル作品を世に送り出している細田守監督最新作。
50億人が利用するインターネット上の仮想世界“U”を舞台に、内気でUの世界でしか歌を歌えない女子高生のすずが、そのUで謎の竜と遭遇するという物語です。
本作を観てきた感想をざっくり一言で言うと.....
秀作!
いやぁ.....良かった。良かったですよ。
見たことがあるようなもの、そして見たことがないものが沢山詰まっていて、またこれまでとはまた違った映画を繰り出してきました!
顔出しも一般化して匿名性も変化してきた今らしいネットと現実の境界線の引き方で、もはやどちらのパートも寓話的に見えてくる不思議な感触の映画に仕上がっていました。
これまでは『時かけ』を期待して『サマウォ』が出てきたり、『サマウォ』を期待して『おおかみこども』が出てきたりと、毎回映画に臨むチューニングを失敗してきたのですが、これまでの傾向や事前情報から、大衆向けの皮を被ったとびっきり実験的な物が出てくる......という予想で臨んでみたら、いい具合に馴染みました。
デザイン、音楽、美術などなど.....各部門の精鋭たちを取り揃えて、本当に捌けるのか?と心配していたのですが、しっかり画としても物語としても新しい体験をくれる映画となっていました。
キャラクターデザインのジン・キムさんと、建築家のエリック・ウォンさんについてはちょうど昨日の記事で詳しく紹介しています。(購読者向け記事です。すみません。)
ご都合主義的なつつき方をすると多分キリがないような映画なんですけど、自分の中でしっくりこれたのは、Uの内外問わず「現実的に考えたら無茶があるかもしれないけど、この話の意味合いならこうあって欲しいよね」的な込めたい意図が見えるのが良かったです。
その辺り、ネタバレも交えながら詳しく紹介していきたいと思いますので、以下、ネタバレ注意でお願いします。
ベルの歌声がしっかり映える見事さ
本作、なんと言っても主人公のベル.....もといすずの歌声が見事。
作中では複数回歌唱シーンがあるのですが、いずれもしっかり見せ場として成立しているのが驚異的です。
歌唱シーンは、各場面特異な美術に食われかねないシチュエーションだったりするのですが、画に負けないどころか、しっかり相乗効果で気持ちを高揚させてくれる気持ち良さがあるのが、本当にこの時点で“勝ち”。
音楽に精通しているわけではないのですが、前評判ですごい方が参加されていると聞いてはいたのですが、まさにそれが実感に変わりました。
今回ベル/すず役を演じて、歌唱を担当しているのは、中村佳穂さん。
公式でなぜ彼女を起用しようとしたのかを細田守監督が語る.....という動画も用意されているのですが、まさに監督のいう説得力が生み出せている、素敵な方だと思いました。
現在冒頭の『U』という曲が配信されていますが、『歌よ』などの他の楽曲も早く配信されないかと、今から待ち遠しいです。
“個人特定”すらも賛否両論で描くどうかしている映画
『竜とそばかすの姫』の内容で度肝を抜かされたのは歌だけではありません。ネット社会の描き方ですよ。
『サマーウォーズ』(もとい『デジモンアドベンチャーぼくらのウォーゲーム』)でも、ネット社会の利害を描いていましたが、『竜とそばかすの姫』ではさらに一歩先の時代を描いていました。
何を描いているかといえば、個人情報の描き方。
平成生まれの私が中高生の頃にはすでに、“インターネットに安易に個人情報を載せないように気をつけましょう”と学校で指導されていて、それが当たり前のような感覚では居たのですが、この映画、その考え方からしたら完全にアウトな結末を描いているのですよね。
主人公のすずは、映画のクライマックスに自身の正体を晒し、さらには、ネット上で出会った竜の所在を特定して会いに行く......という冷静に考えたら、それって大丈夫なのか?という行動がクライマックスになっています。これらの行動について「ダメだろ」って感覚はもちろん分かるのですが、個人的にはもうそういう時代でもなくなってきているというのが正直なところ。
YoutuberなりTikTokerなり、個人がネットを通じて顔を晒していく行為はすでに一般化しており、ネット上に自分の顔や情報が点在しているのも当たり前になってきました。今や個人情報の漏洩報道も、見飽きるほどに頻繁に起こっています。炎上騒動にでもなれば、たとえそれまで個人情報がネット上になくても、簡単に個人の特定がされてしまう時代です。
もう“個人情報を載せない”が通じる時代じゃないんですよ、多分。
そんな中で、『竜とそばかすの姫』はそう言ったネットの個人特定文化の凶悪な部分を描きながらも、逆にその特性を使えば、
「自分って存在を広く広めていくこともできますよね」
「つながることができなかった人とつながることができますよね」
という、ネットがそういう特性のある道具であることを踏まえて、じゃあその特性をせめて良い方向で使っていこうよ、という姿勢が見えて、一歩先の時代を見つめているように感じました。
その行動はある一面では間違いではあるけど、ある一面では救える行動かもしれない。それはわからない。でもせめて、良い方向に変わるような意思を持って行動に移していこう。そんな素敵なメッセージがこの映画に感じられました。
すずちゃんのお母さんの話もそれですよね。
川飛び込むのが正解だったかどうかなんて、その場でみんながすぐに答えは出せないですよ。
セルルック3DCGと手描きアニメーションの融和
スタジオ地図作品で忘れてはいけないのが、3DCGアニメーションと手描きアニメーションの融和。
細田守監督は以前から、3DCGと手描きアニメをいかにして違和感なく共存させるか.....もしくはその違和感をいかにして演出として成立させるのかに挑戦し続けてきた監督だと思っていまして、まさにそんな細田守監督の最新の解答がここにありました。
日常世界は手描きアニメーションを中心にして、電脳世界をセルルック3DCGをメインに描くという手法は『サマーウォーズ』そのままではありながら、今作ではさらにクオリティをアップさせ、ついにクライマックスではそれが融和する(=セルルック3Dのすずが登場する)という、映画の物語とアニメーションが直結する演出にはため息が出るほど、見事だと思いました。
下手なCG技術じゃ見劣りしかねないのですが、あの3Dすずちゃんの造形が絶妙で、急にあからさまな3DCGルックになってがっかりするみたいな違和感じゃない域に到達していたところに、親指がぐっと上がりましたよ。最高。
やたらディテールの細かい現実世界の風景描写がUの世界とのギャップで余計に際立ったり、竜のお城(っていうかなんで城持ってんだってツッコミはあれど)の妙にピントがあっていないような見せ方などなど......画力(えぢから)の見せ方も素敵でした。『私は今、2021年のアニメーションを見ているぅぅ!!』と心の中で叫びましたよ。
中盤の山場であるダンスシーン諸々が『美女と野獣』すぎるだろ!とか、もちろん思ったりもしましたけど、そういう諸々をさておき、見終えた後に気持ちの良い気分で劇場を出られた、個人的にはクリーンヒットな一本。
『竜とそばかすの姫』、ほんと良かったです。
日本国内だけでなく海外でも頑張ってほしいです。
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