ショートショート:666
こんにちは、根井です。まずnoteをなんと9ヶ月もサボっていたことをお詫びしたいと思います。ごめんなさい。
さて今回は前回()に続いてまたレストランものなのですが、まあ次からは何か別のやつを書きたいと思います。
「グゥー、、、」
お腹が空いた。ふと時計を見ると、もう十二時を回っていた。食事処を探しながら辺りを歩き回っていると、一つのファミレスが目に入った。1人でファミレスというのもどうかとは思うが、とりあえずものすごくお腹が空いているので、とりあえず入ってみることにした。
店に入ってみると意外にもそこは混んでいて、満員だったのでウェイティングリストに名前を書き、その近くに置いてある椅子に座って待っていた。しばらくすると1人の男の店員がやってきて、ウェイティングリストを見る。
「えーと、、、次はこれか。一名でお待ちの黙示録の獣の高橋様、いらっしゃいますか?」
一瞬思考がフリーズする。おそらく今ここにいる人の中に一名で待っている高橋は僕以外にいない。しかし僕は黙示録の獣だなんて書いていないのだ。
「あれ、いないのかな、黙示録の獣の高橋様?」
ここで立ち上がって店員のところへ行くのは恥ずかしいが、店に迷惑かけるわけにもいかないので店員の方へ向かう。
「あ、はい、僕です、でも僕黙示録の獣とか書いてないですよ?」
「今空いている席が666卓だけで、そこに1人じゃないですか、いやもう完全に666卓に座るべくしてきたのかな、って思ったので。」
「そんなわけないでしょ。」
若干の店員への不満とこの店への不安が湧いてくるが、案内されて席へ向かう。というか666卓?どう見てもそんなにテーブルがあるようには見えない。一体ここはどんなレストランなのだ。
「こちらになります。」
店員に案内された席に座り、メニューを取るとその店員がすぐに聞いてきた。
「ご注文はなんでしょうか?」
あまりにも早かったので僕は困惑した。急いでメニューをペラペラとめくり、質問に応じようとする。
「あ、マルゲリータと、、、」
「番号が書いてありますのでその番号でお答えください。」
「え?番号なんてどこに、、、」
「これです」店員がほんの少しイラついた様子で言った。
「え、いや、どれ?」
「だからこれです。」
店員の指の先にあったのは胡麻粒のような小さい文字だった。文字が潰れていて到底読めそうもない。が、一応頑張って読んでみようとした。やはり読めなかった。
「すいません、読めないです。」
「そんなはずはないです。読めます。」
「いやほんとに読めないんですよ。じゃああなたが読んでみてください」
僕がそう言うとその店員は僕の手から奪い取るようにしてメニューを見た。
「注文なんでしたっけ。」
「マルゲリータ」
店員が目を細めてまじまじとメニューを見る。
「えーっと、66番。トッピングに世界一辛いキャロライナリーパーを使ったホットソースはいかがですか?」
キャロライナリーパー。誰もが一度は聞いたことのあるだろう世界一辛いと有名な唐辛子。なんでそんなものがここに置いてあるんだろう。少し興味が湧いた。だがあまりに辛すぎた時を懸念して、今回はお預けにしておこう。
「いらないです」
そう言うと店員は、
「まあそう言わずに、世界一辛いと言っても、少しじゃ死にませんよ。」
と言った。やっぱり興味が湧く。一応辛さを聞いておこう。
「じゃあ、どれくらい辛いんですか?」
その言葉を聞くと店員は間髪入れずに答えた。
「6グラムで死にます」
いやいやいや、ダメでしょ絶対。そんな危険なものを店で売っていいのか?
このホットソースを頼まなくて良かったと安堵した。興味が湧いても慎重に行った自分を褒め称えたいくらいだ。
「やっぱりいらないです」
なぜか店員は少し残念そうにした。
「わかりました。じゃあ他に注文はありますか?」
ホットソースのインパクトが強すぎて食べる物を考えるのを忘れていた。急いでメニューのページをめくる。
「あっ、ポテトで。」
店員はさっきよりも目を細くしてメニューを見つめた。
「6番。トッピングに世界一辛いキャロライナリーパーを使ったホットソースはいかがですか?」
またさっきと同じことを聞いてきた。何ですか、暗殺者か何か?
「いらないです」
また店員は残念そうな顔をする。
「他に何か注文はありますか?」
やはりドリンクは欠かせない。今日の飯のお供は、、、
「コーラで。」
店員はまた目を細めるが、さっきよりは読むのが楽そうだった。
「666番。トッピングに世界一辛いキャロライナリーパーを使ったホットソースはいかがですか?」
三回目だ。しかも今回はなぜか飲み物。
「飲み物につけて何するって言うんですか。」
「じゃあ、つけますね。」
「いやいらないって意味です。」
店員はまたまた残念そうな顔をした。
「ご注文以上でよろしいですか?」
「はい」
「では注文繰り返します」
やっとこの注文時間が終わる。ここまで長い道のりだった。
「マルゲリータ666枚とポテト666本とコーラ666本でよろしいですね。」
いや、業者か。コーラ666本なんて聞いたことないぞ。
「全部一つずつで」
なぜか店員は驚いた顔をした。
「わかりました、全部一つずつですね。」
そういうと店員は帰って行った。注文までに15分はかかったぞ。いや長かったな。
そんなことを考えていると、すぐにさっきの店員が料理を運んできた。
まずコーラ。そしてポテ、、、ト、、、が一本しかない。
「あのポテトが一本しか入ってないんですけど。」
そう言うと店員は、
「あなたが一つって言ったんじゃないですか。」
と店員が返した。いや確かに言ったけども。
「え、あれ一本って意味だったんですか?」
「おっといけない。大切なお客様に勘違いをさせてしまったようなので。」
そう言うと店員は厨房に戻って行った。きっとポテトを持ってくるのだろう。
かなり待たされた。厨房からあの店員がこちら側に来た。
「こちらお詫びのホットソース36グラムです」
お詫びをくれるのはありがたいけれど、それは唯一有り難くない物だった。
そして同時に、このレストランで一度も出てこない3という数字に気がついた。
「番号とか席の名前とか6ばかりなのに、そこは6じゃないんですね」
そう言うと店員はニヤリとした悪い笑みを浮かべて言った
「こちら六回分となっております。」