倫なら不恋
不倫 倫なら不恋、とはよく言ったもので。
お互いいいとこどりのたまに会う関係、メールで励まし合うだけの関係ってのはほんとに楽で楽しくて。そりゃエッチも気持ちいいよ。
でもそこから気持ちが盛り上がって、相手のことをもっと知りたくなって、もっと欲しくなって。楽しいことを共有したくなって。お互いの「日常」に踏み込むと。
そこには相手の「家族」がいる。奥さんがいたり、子供がいたり。その人たちの前で、夫や父親をしているその人がいる。
私は今まで彼の「男」の部分しか見てなかった。深い話をして、人生の本質的なことを話して、互いを深く知ったつもりだった。でも私が見てた彼こそ、ほんの一部分で。
今日TさんのSNSを遡ってて、彼の奥さんの写真を見つけてしまった。お母さんと奥さんと、一緒になって家族経営している彼。そこに私の入り込む隙なんて完全になかった。ってか、私は農業なんてできない。彼が「家族を壊す気はない」って言った意味がわかった。両親と夫婦でやってる仕事。彼の人生をかけてる仕事。そこには奥さんが必要。たとえセックスレスでも。仲良しで、人生を供に生きる伴侶なんだ。
改めて、この人は一生他人のもので、たとえ私がフリーになったとしても、私は一生日陰の女なのだなと実感した。そして彼もそこをよくわかってて一瞬私との恋に気持ちを持って行かれそうになっても、そんなことができないことがよくわかってるんだ。そうわかると、かえってもう私はただ彼を外で癒す、かわいくてやさしいだけの女でいようと思った。私の気持ちを受け止めてもらおうなんて思えなくなった。彼は私以上に大きなものを背負ってるから。私のダンナの件なんてたいしたことない。彼とは職業観や心やたとえ体でつながったとしても、生活、という面でつながれることは一生ない。でも、それでもやっぱり彼のことが好きだから、私はそうやってがんばっている彼を微力ながら支えてあげたい。そう思った。
一方、スキンヘッドさんは奥さんも含めてツーリングが趣味で毎週末数人でどっか行ってる。今日行ったとこ楽しかったから動画見る?相方映ってるけどって言われて、軽くうん、って答えた。
野外アクティビティを一緒に笑いながら楽しむ姿を見てしまって、自分はこの幸せな夫婦の関係を壊そうとしているのかもしれないって思ったらすごく苦しくなった。お互いの幸せのために、楽しむために会ってたはずなのに、彼がほんとにこれ以上私にのめり込んで、離婚という選択をしたとしたら、私は彼からこの幸せな関係を奪ってしまうことになるんだ。何十年も連れ添って、彼の変態的な性癖に付き合って、子供も二人育てて。彼が何度も浮気して、離婚問題になっても、なんとかおさめて、今なおこうやって、毎週末一緒に趣味を楽しんでいる素敵な夫婦を、私が壊すかもしれない。しかも私は誰かとマンツーマンで付き合ったり、再婚したりする気はない。つまり彼の新しい家族になる気はないというのに。
突然涙が出てきた。見てはいけないものを見てしまった。そこまで本気じやないし、リアルじゃないから大丈夫だと思った。甘かった。
彼から送られた動画を見たあと、LINEの返信の私の様子にスキンヘッドさんは焦ってた。見せてはいけないものを見せてしまった。私がもう会ってくれないんじゃないかってそわそわしてた。今すぐにでもうちまで来そうな勢いだった。
でもなんとか気持ちを切り替えてチャットバイトにいそしんだ。彼はもう寝るって言ってたのに、途中で起きて私のチャットをのぞきにきた。チャットで楽しくお話させてもらって、その日はなんとか気持ちが落ち着いた。
ここまでが日曜の話。次の日、月曜。
午前中で仕事が終わったことを伝えると彼は「今から行く」って。本当に飛んできた、笑。
この人のフットワークの軽さはすごいと思う。仕事でちょこちょここっちに来るとは言え。しかも30分で帰ると言う。
生理が始まったようなよくわからない状態でもあったし、時間もないから、とりあえず抱擁して、キスして。本音を話した。
彼は嫉妬して欲しかったみたいだけど、私は嫉妬、というより、自分がこの幸せそうな夫婦の関係を自分が壊すかもしれないっていう恐怖に襲われたのだと話した。自分にとっては家族という存在そのものがとても重くてやっかいで、結婚も遅く子供も望まず、夫と二人だけの家族で、自分の両親やきょうだいともほぼ絶縁してて、そういう状態だけれど、あなたは違う。家族がいる生活が普通にある。それを私が奪っても責任が取れない。自分はそんな責任を取れないことをしてるんだって思ったって。でも、じゃあもう会わないかというと、会いたい気持ちはあるから、ズルいけど、できる限り、注意を払いながらこの関係は続けたいって結局自分に甘い結論を出した、と。
彼にも本音を言って、って言ったけど、言わなかった。でも、私がそこまで真剣にいろいろ考えたり、彼のことを思っていることがうれしい、と言った。ってか、このくらいは当たり前でしょ、大人ですもの。それにあなたのこと好きだから、不幸になってほしくないもん。
そうやって抱き合って別れたあとも何時間もLINEしてた。
夜、話の流れで彼が「本音を言う」って。
「ねいちゃんの性に対するオープンなとこ、物事をはっきり言うこと、すごく魅力的なの。体の相性もいい。今の段階では全部知ったわけではないけど、こんなに思ってくれてるとは思わなかった。
家族のことなどいろいろ天秤にかけて考えた。妻にはいろいろ迷惑をかけてきたけれど、性癖のことを理解してもらえないなら仕方ない、でも子供のことを考えて、妻から口にするまでは離婚しないことにした。
そう言いながらも行動は正反対のことをしてるけど。」
私は自分の父親の浮気話や子供に対する話をした。だから、彼には家族を大切にしてほしい、と。だけど、会いたい気持ちはあるから、節度ある行動をしようって。
わかった、って言いながら、
「暇さえあれば会いたい笑」
と言って本当にそれを実践する彼。こらこら。ほんとに熱い人。有言実行。いいか悪いか…どちらも、だね。でも私はそういうとこ、好きだし、素敵だと思うし、とても男らしいと思う。そしてそういうところが彼の仕事の姿勢にも繋がってるのが分かるから、ダメだとは思わない。ただ、ほんと気をつけないと、女の勘は鋭いし、絶対態度にいろいろ出てると思うから、奥さんにばれるのは時間の問題じゃないかと思ったりする。奥さんはきっとできたいい人だと思う。この人のこんな性癖を受け入れるほど、愛情深い人なんだもの。ほんとにこの彼を今まで支え続けた奥様に申し訳ない。だけど、大人だから。彼の行動は私が決めることじゃないから。
そして今日。朝からチャットでの私の待機の仕方について彼からアドバイスが。決して間違ってない正論だけど、私は私の価値観で譲らなくて。彼は私にだいぶ好かれてることに安心して、自分の意見を言うようになったのかな。年の離れたお姉さんがいて、ほぼ一人っ子状態の弟君、本当はすごいわがままな気がする。欲しいものを自分だけで独占したい。私がチャットでほかの人ともこうやって繋がることを危惧してるのかも。自分だけ特別でいたいから。常にサービス精神旺盛で、誰にでも本音でまっすぐ向き合う私。このスタンスにきっと本気になる男がほかにもいるだろう。それが怖いんだろうね。ほかの男たちをただの金づるにしてほしいんだと思う。あとは試してるのかもね、私たちが本音を言い合って、今まで以上にいろんな部分を見せ合ったらどうなるのか。だって。
「セフレという域を超えてしまってる。こないだも抱いてる時に言ったけど、欲しいと思ったよ。でもそれは私の一方的な思いを思ってる。今でも頭の中にセフレという言葉が残ってるの、それも事実。」
「いつも私のこと欲しいっていうけど、欲しいってどういうこと?十分モノになってない?その時だけじゃ足りないってこと?独占したい?付き合いたい?結婚したい?セフレってのはただの言い方だから。傷ついた?ごめんね」
「欲しいってのはすべて。さっき言ったこと全てがあてはまるよ。」
「私が全てあげるならあなたもくれないといけなくなるやん」
「時が来たらあげる」
「じゃあそれはそのとき考える、笑」
えっと。私今さらっとプロポーズされたってこと?この人、熱くて気持ちにまっすぐだとは思ってたけど、私と結婚したいとまで思ってたとは。ちょっとびっくり。でも決して嫌ではなかった。したいとまでは思わないけど。そのくらい思ってくれてるってことはすでに伝わってはきてたし。彼がそれを私に素直に言うようになったってことは、自信のない彼が、ちょっとは私に愛されてるって自信を持ったせいかな。
確かに、彼のことをどんどん好きになってるとは思う。距離が近いもん。そりゃ、1週間に一回以上も会って抱き合ってたら、好きにもなるよね。でもそうなってくると、Tさんのことを言わないわけにはいかなくなる。まだ、私の心にはTさんがいる。例えば今日あったことを彼とTさんのどっちに先に話したいか、それが好きの順番になると思うんだけど、今は…正直半々だ。比較的時間が自由になる彼は、向こうから先に聞いてくるから、そこに返事を送る。でも今繁忙期で忙しいTさんからは1日に朝晩の何通かしかメッセはこない。だけど、それでも話したいって思ってしまう。忙しい彼から返事がなくても、彼が私のメールでちょっとでも癒されるように、ってエッチな妄想をかき立てるようなメールや動画を送ってあげたくなる。そういう意味では、やっぱりまだTさんの方が上なんだと思う。時間の問題のような気もするけど。
でもやっぱりこれ以上スキンヘッドさん(Wさんにしようか)と近くなっていったとしても、だからといってTさんと連絡をたったり会うチャンスがあったとして会わないっていう選択肢はとったり、ってことはしたくない。
だとしたら、Tさんのことは先に彼に話しておかないと、と思った。私にそこまで思われてないって思って、自分の本音を出さなかったWさんが、少し自信を持って、どんどん素直になってきてる。もっと深みにはまったときに知ったら傷も大きい。
自分のモノになったとしても、性癖的にほかの人とやってきてもいいよ、そのあとでやらせてくれたら、っていうWさんに、Tさんのことを話した。
そしたら、
「その話を聞いたら、会って欲しくないって思った。私よりいい男はいっぱいいるだろうし、あなたは私のモノではないから、そっちにいってしまう不安がある。」
って。そんなに素直になっちゃって。ごめんね、そうだよね。わかってるよ。あなたの性癖はあなたへの絶対的な愛情があってこそ、のもので、私のように、多少の上下はあっても、どの人にもそれぞれの愛情を感じて同時進行できる私のような女にあてはめられるものではないもの。私がWさんのことを好きなのは確かだけど、彼が一番か、そうなったとして一生それを誓えるか、というと、答えはノーだ、完全に。たとえ彼のことを好きで、彼がいい人で、奥さんと別れて、私と一緒になると言ったとしても、私は誰か一人のモノになるのは嫌だ。こわい。自信がない。がっつり一緒に生活して、その人だけを愛し続ける自信はない。もしかしたら嫌いになるかも。だったら、何人かで気持ちを分散させて、すべて楽しいまま続けていきたいって思ってる。
彼もそこは理解してた。で、
「明日会いに行こうかな」
って、えええーーー
今週は来られないって言ってたじゃん、w。ほんとにこの人…愛情深い人だと思う。でもだからこそ、私がそれに応えられるか、というと。そして、本当はやはりその愛情は奥さんに注がれていて、奥さんに受け止めてほしかったんじゃないのかなと思ったりする。今は一時的に私に心を奪われてるけど。
寝る前のメールで「ねいさん、好きよ-」って。素直に送ってきた。相手にも思われてるって信頼がないと言えない言葉。もう、素直になっちゃって。かわいいね。子供みたい。でもそれがずっと続くかなーー?w
ま、しばらくはこんな感じで様子見かなって思う。相変わらず悪い女ですよ。だけど、恋愛ってこういうものでしょ。仕方ないよね。あはは。おやすみなさい。