Soul Journey#4 カナダ【Grandpa】
カナダの学校生活も慣れてきた冬のある日、私は朝からふと思い立って、行ったことのない街に行ってみることにした。
電車でたった数駅北に登るだけの、小さなまちへの散歩。
2月のトロントは外の気温がマイナス10度くらいだったけど、室内がどこもすごく温かいので(暑いくらい、室内では半袖になることも)あまり寒さには困らなかった。
散歩をしながら小さな雑貨屋さんを見て周り、大きな書店に入る。
どこの国でも、たくさん本がある場所は、大好きだ。
洋書のレシピ本の明るいカラフルなサラダの表紙を眺めたり、日本の漫画って世界中どこでも売ってるなぁと思いながら時間を過ごす。
書店を出てすぐに見上げた空があまりにも青く澄んでいて、キンと冷たい2月のトロントの空気がとてもとても気持ち良く感じた。
「今夜、家に電話しよう」ふとそう思った。
2008年当時、日本に電話をする手段はもっぱらロングディスタンスカードという国際電話カードを10ドルくらいで買って、カナダで手に入れたケータイから電話をかけるという方法だった。カナダに行く前に母にemailを伝えていたけれど、あまりパソコンを頻繁に使うことのなかった母とのやりとりはもっぱら、こちらから電話をかけるという方法のみだった。
日本との時差を見て、その日の夜に久々に日本の実家に電話をかけてみた
ぷるるるる….
「はい、もしもし?あ、ミカちゃん!」
なんだかちょっとバタバタした様子で母が電話に出た。
「大変なの、実は今日ね、おじいちゃんが亡くなったの!」
大好きだったおじいちゃんが亡くなった。
一瞬、目の裏に昼間に見たあの美しい青空が広がる
(おじいちゃんが知らせてくれたんだ)
私はおじいちゃんのことが大好きだった。
小さな頃からいつも一緒に笑い転げてくれて、抱きしめてくれて、いつも私の絵を褒めてくれた。
カナダに出発する前、おじいちゃんが入院する病院に会いに行った。
少し、痴呆が始まっていたのに、おじいちゃんは全部理解して、手を握って涙をポロポロ流して泣いていた。
おじいちゃんが泣く姿を初めて見た。
「大丈夫だよ、おじいちゃん、1年くらいですぐ帰ってくるからね」
今思うと、会えるのはあの時が最後だったと、おじいちゃんは分かっていたのかもしれない。
母との電話を切り、そこからは、すぐに日本行きのチケットを手配して、早朝の便に乗るために朝4時にアパートを後にした。
クラスメイトだったハンガリー人のアニコとルームシェアをしていたので、学校には彼女から連絡をしておいてもらった。
早朝の真っ暗のトロントの道をタクシーで空港に向かう。何を話したか覚えていないけど、タクシーの運転手さんがとびきり明るくて良い人で、重たい気持ちが少しだけ救われた。
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おじいちゃんとの最後のお別れをした。
とても寂しかったけど、あの日、最後におじいちゃんが知らせてくれた気がして、ちゃんと会いに帰れて本当に良かったと思った。
あの日、私が電話しなければ、私はおじいちゃんのお葬式に参加できなかったかもしれなかったのだから。
一週間程日本で過ごし、授業に戻るために再びカナダに戻った。
事情を知っていた学校のみんなはとても温かく、悲しむ私をハグしてくれた。
おじいちゃんが亡くなって、心は寂しさでいっぱいだった。
けれど、今はせっかく夢を叶えてカナダに留学をしているんだ、今は学校に集中しよう、、そう思うことにした。
ところがカナダでの日常に戻ってすぐに不思議なことが起こり始めた。
電車に乗っている時、ふと目の前にいる男性を見ると顔が私のおじいちゃんにそっくりだった(ちなみにその人は西洋人)あまりに驚いて、何度も見返してしまうほど。
しばらくして、心を落ち着けてよくみると全然似ていないと我に帰るのだ。
(そんな訳ない、おじいちゃんが亡くなって寂しいから、そんなふうに幻想が見えるんだ..)
けれど電車の中で、街中で、いたる場所で、時には女性ですら、、アジア人、西洋人、年齢問わずいろんな人が一瞬おじいちゃんに見えるというこの不思議な現象は何度も何度も、しばらく続いたのだ。
つづく