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「言いたいことを我慢しない」 アサーティブ・コミュニケーション
自分が言いたいことを相手に物おじせず伝えることは、なかなかハードルが高いと感じませんか? 日本人は、はっきりものを言うことが苦手な傾向があると感じるのは、特に外国の方と話をしていて思います。
はっきり・きっぱり言ったら関係性を壊すかもしれない。強気に出る勇気がない。でも言いたいことを言えるために、外国の人のようにズバッと言えるように自分を変えよう! 勇気を出そう!
ダメです。
それはダメです。勇気なんて出して言っちゃダメです。
そもそも、関係を壊してまでズバッと言う外国人とは、映画の中でしか会ったことがありません。皆、丁寧です。でも、言いたいことを言えない、言わない日本人が多いことも同時に実感しています。
『アサーティブ・コミュニケーション』という言葉を聞いたことがあるかもしれません。どこかで耳にしたことがあるかも。
まず、アサーティブ(assertive)とは、オックスフォード辞典によれば以下のようになります。
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言いたいことを言う、とは「断定的、独善的、自己主張が強い」といったイメージで捉えがちですが、『アサーティブ』とは、自信を持って表現し注目を得ることです。
「断定的、独善的、自己主張が強い」な意見を言うためには、勇気が必要ですよね。でも、アサーティブなコミュニケーションでは、「断定的、独善的、自己主張が強い」ではないやり方ですので、勇気を振り絞らなくても、自分の意見や要望を強く自信を持って表現できます。
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では具体的に、どのように伝えればアサーティブな伝え方ができるでしょうか? それにはまず、次の3つのポイントを押さえておきましょう!
その1)私=「 I (アイ) 」で伝える
その2)自分の考えをその通りに伝える
その3)一次情報を伝える。そうでない場合は、情報の経緯まで伝える。
まず、アイで伝えることですが、例えば「あなたはこうすべきだ」「ふうつはこうだろ」と、要求することとは真逆で、「あなたがそうすることで、私は嬉しい」と素直に伝えることです。
そして、自分の考えを、遠回しでなく、素直にその通り伝えること。
またその内容は、一次情報であることが望ましいです。
『一次情報とは?』
発言者本人が、実際に体験したこと、紛れもない事実として確認したことです。人から聞いた話や、書物や論文などによるものは2次情報であり、さらに3次情報は伝聞や噂話ですから、もはや信用に足りません。
2次情報までなら、その情報ソースも含めて伝えることで、正確な情報伝達となります。もちろん書物や人から聞いた話でも、それを検討し学んだ結果として、自分の意見として伝えることは全く問題ありませんが、事実と意見は明確に分ける必要があります。
「普通はこうだろ」と言うのはあくまで意見であって、「普通はこうだから、あなたはこうすべき」という文脈は最悪です。
「この事実に対し私はこう考える」であれば、一次情報による私の意見として、自信を持って強く主張することができます。
しかし、人は自分の意見を真理のように、事実のように語ることをしがちです。その態度は、どのように、なぜ、出てくるのでしょうか?
その理由・原因を、次の図がうまく分類しています。心理学者の川上真史氏の講義からの抜粋を、私なりに整理したものです。
ポイントは、人はニュートラルなポジションより、バイアスのかかった態度を取り得る、という点です。
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縦軸には、コミュニケーションする相手に対して、「上から目線か、下から目線か」という傾向です。立場の違いがあると、人はなかなか同じ目線に立てないものですが、この態度の違いによって、人の言動は変わります。
そして横軸に示すのは、そもそも否定的か、肯定的か、ということです。
相手に対して肯定的な場合、かつ上から目線であれば、「認めてあげる」(図の右上)という態度になります。
逆に、否定的な場合、「指導する」(左上)という態度に出ます。
一方、下から目線の場合はどうでしょう?
相手に対し(少なくとも表面上)肯定的であれば、「忖度」します。
逆に、否定的であれば、「はっきり言わない」という消極的な態度に出ます。
このような書き方をすると、偏った態度はいずれもろくなものではありません。
アサーティブ・コミュニケーションはそのどれでもありません。
相手に対する上から、下から、という評価軸から離れ、フラットな関係での物言いになります。
また、相手に対する「そもそも肯定・そもそも否定」という態度もアサーティブなコミュニケーションを阻害します。
アサーティブ・コミュニケーションでは、偏ったバイアスを避け、フラットな関係性や見方に基づいた議論や交渉を行なっていきます。
その時に邪魔なマインドセットを言葉で整理すると次のようになります。
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アサーティブ・コミュニケーションとは何か、その全体像はこのようなものです。
さて、その上で具体的な方法について知れると良いですよね。
次に示す『DESC法』を試してみてください。
「Describe」「Express」「Specify」「Consequence」の4つのステップで構成されます。
DESC法の各ステップ
Describe(事実を伝える)
客観的に事実を説明します。この段階では感情や主観を交えず、具体的な出来事を伝えることが重要です。Express(I「私」の意見を伝える)
自分の感情や考えを率直に表現します。「私は」という主語を使うことで、相手を責めるトーンを避けます。Specify(具体的な提案をする)
相手に望む行動や改善策を具体的に提案します。実現可能で明確な内容を心がけます。Consequence(どのような結果になるか、を伝える)
提案を受け入れた場合に得られるポジティブな結果を伝えます。場合によっては、提案を受け入れない場合のネガティブな結果も補足します。
DESC法のメリットは、次のようなことだと言えます。
感情的になりにくく、建設的な会話が可能になる。
相手を責めることなく、自分の主張を伝えられる。
互いの理解を深め、信頼関係の向上に寄与する。
もちろん、DESC法を使い場合、前段で示した考え方、例えば「アサーティブ・コミュニケーションとは単に強い主張ではない」ことや、「そもそも上から目線、下から目線、否定、肯定を決めつけない」といったマインドセットが基盤にあります。
その上で、DESCの手法を使うことで、相手との関係を壊すことなく、自分の主張をはっきり示すことができるでしょう。
もし大事なことを伝える必要がある場合は、D,E,S,Cそれぞれをメモに書き出して事前準備をすれば、緊張せずにはっきり伝えられるかもしれません。
いかがだったでしょうか?
アサーティブ・コミュニケーションについては、また別の機会に、さらに深掘りしていきたいと思います。
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