日記(2024/6/27、6/29)
毎日ちょこちょこと書いている日記から、今週の二日分を抜き出しました。
2024/6/27(木)
食後の散歩の途中に、暑くてドラッグストアへ避難する。午後八時の店内はガラガラだった。
ドラッグストアを歩き回るのが好きだ。
涼しいし、新商品を見ていると退屈しない。
通路に面した特設コーナーは、制汗剤や暑さ対策グッズでいつの間にか青一色になっていた。
長い夏の始まりだ。
最前面に押し出された日焼け止めは、昨年から更に進化していた。
動物だったら何十世代もかかる進化を一年でサッと遂げてしまうので、毎年パッケージを手に取り「え? これも日焼け止め?」と驚いている。
数年前に「手が汚れない!」という売り文句でスプレータイプが革命を起こしたはずなのに、今年はミストタイプが「軽いつけ心地♪」と言いながら、売り場の一等地に鎮座していた。
スプレータイプは、棚のちょっと取りづらい位置に追いやられている。ものすごい競争社会だ。
日焼け止めに生まれなくてよかったな、と思う。
毎年新しいライバルが現れて「肌がトーンアップできます」「メイクの上からも塗れます」と、単なる日焼け止め以上の効果を求められ続ける。そんなの心が保たない。
人間社会なら、アイドルやユーチューバーくらいの激戦区だ。
わたしは、虫刺され薬くらいがいい。
夏でも注目度は三、四番手のくらいの世界で、同業者ならわかる程度の進化をマイペースに遂げていきたい。
いくら足並みがゆっくりでも、ムヒのチューブなんて10年掛けてクチャクチャにしないと使い切れないからいいのだ。
久しぶりに虫刺され薬を買う人は、わたしを見て「今はこんなのあるんだ」と喜んでくれるだろう。
十分じゃないか。
2024/6/29(土)
朝六時起き、七時五十分集合で、映画「オペラ座の怪人(4Kデジタルリマスター)」を観る。
「オペラ座の怪人」は、吹奏楽部員だったわたしの青春だ。
わたしたちの代は、高二の定期演奏会で一度この曲を演奏し、翌年の定期演奏会でも音楽劇にアレンジして再び演奏してしまった。
吹奏楽経験者なら「おいおい」とツッコんでくれるだろう。
二年連続で同じ曲を吹くのは、金曜ロードショーで二週連続「タイタニック」が流れるくらいありえないのだ。
つまり、わたしたちはこの曲が好きで好きで仕方なかった。
劇中で一曲流れるたびに思い出が溢れだし、ストーリーがそっちのけになりそうだった。
何度も同じ箇所でミスって、顧問に『お前、俺を馬鹿にしているのか?』とキレられた曲。
いつもわたしを「お前」と呼んできた男子が恐ろしく上手なソロを吹き、一瞬だけ「格好いい」と思ってしまった曲(しかも超ロマンチックなプロポースの場面である)。
演奏会の直前に階段から落ち、足がパンパンの状態で踊った舞踏会シーンの曲。
一本の映画を観る度に、わたしは一生の思い出と、それを共有できる友人を思い出す。
なんて幸せで、ありがたいことだろう。
帰宅すると、夫はちょうど楽器の練習中だった。
(音楽繋がりで出会った夫は、今でも趣味で続けている)。
楽器を借りて吹いてみるが、ドレミファソラシドドシラソファミレド、の往復だけで息が上がり、右手もだるくなってしまった。
現役の時は、一日休むと取り戻すのに三日掛かると言われた。
五年のブランクは、十年の経験をすでにリセット済みだろう。
良い音楽を聴くたびに、「思い出」で終わりにしたくない気持ちと、叱られて手が震える記憶の間でぐらぐらと揺れてしまう。