
[好きな広告を勝手に解説するシリーズ] フォルクスワーゲン ~Lemon(ポンコツ)~
好きな広告を勝手に解説するシリーズ vol.1 は、1960年代のフォルクスワーゲンの広告「Lemon」です。
Lemonというのはスラング?で「ポンコツ」という意味です。普通は、広告といえば、良いところ自慢をするものですが、自社商品の宣伝にポンコツというのはどういうことでしょう?Lemonという文字面だけみるとなんて自虐的なんだろうか。ところが、この広告は大ヒット・旋風を巻き起こしました。
何がすごいの?
広告は基本的に、誰に、何を、どのように、で構成されます。特に、誰に(ターゲット)、何を(ベネフィット)を明確にしたうえで、どのように(表現)でアウトプットするので、その順番で記してみます。
今回の広告のターゲットは当然車がほしい人ですが、中でも1960'sのアメリカという舞台で宣伝されたことに面白さがあります。
ドイツの名車フォルクスワーゲンは、いまでこそアメリカだけでなく世界中で愛されています。が、当時はまだまだです。さらにアメリカといえば、アメ車。ビッグ、ダイナミック、スケーラブルなどがカッコいいとされる文化が根強かったはず。ひと言で言うと、「No.1最高」「ビッグ is グレート」です。そんなターゲットに対して、miniに代表されるようなコンパクトカーを売り込むわけです。
ましてや、時代は戦後落ち着き始めたころ。完勝国アメリカに対して、ドイツは敗戦国。ドイツ製品に対する信頼は薄かったと推察されます。イメージでいうと、ひと昔前のmade in chinaに対する日本人の感覚に近いかもしれません。
そこにLemon(ポンコツ)という広告を出したのです。ポンコツがほしい人なんているわけがありませんが、それでもアメリカの人々は気に留めたのです。なぜか?
「素敵な言い訳」を代弁してくれた
アメ車はたしかにカッコいいので、みんな好きでした。でも一方で、壊れやすい。修理代もバカにならないが、「No.1最高」カルチャーにおいて、見栄を張らざるを得なかった。みんなが実は内心「いゃ~困ったな」と思っていても、誰もそれを口にしなかった。ダサいと思われるから。(余談ですが、意味ないとわかっていて、毎日満員電車に乗りづづける日本の文化も構造的には同様です)
そこに、Lemonです。ほんの少しの欠陥(ポンコツ)も出荷しないぞ、という「新型カッコいい文化」を投入したのです。「ビッグ is ナンバーワン」で内心疲弊していた人たちに、自尊心を損なわなくて済む素敵な言い訳ができたのです。コンパクトカーをチョイスすることがダサい、というふうに思われるという思い込みから解放されたのです。
敗戦国という立場で見られていたドイツが、完勝国アメリカに喧嘩を売るのではなく、アメリカ人の心に寄り添った。
だれに、なにを、を、どのように表現するかの前に、時代の空気感みたいなものをキャッチしたこと。これこそが、この広告のすごさです。ちなみに、この広告キャンペーンの前後で、販売台数は4倍以上になりましたとさ。
以上、単なる広告好きの私見でした。