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泣いた愛車
※この記事は1000文字です
いよいよ別れの時が来た。
明日は新しい車をお迎えして
今までの愛車とはバイバイする日。
わたしは洗車場に向かった。
もう手放すから
洗車をする必要は全くないのだが、
それでも最後に
「かっこいい車にしてあげたい」
そう思ったのだ。
購入した時は
「名ばかり正社員」時代。
そんなに高くない時給。
そこにボーナスが年に2ヶ月分。
パート社員に近い雇用形態だった。
その時は電車通勤をしていたため
そんなに車にこだわりはいらず、
前の愛車のそっくりさんを購入した。
「ずっとそこで働くんだ」
と思っていたが、約2年で退社した。
間髪入れずに働き始めた
「正社員」時代。
車通勤になって
毎日、乗ることになった。
初日から
「辞めたい」と思う職場。
休憩室にいる人たちと仲良くなれず、
昼休みは車の中で過ごした。
そこにいる時だけが
心やすらげるときだった。
だけど、ある日突然糸が切れて
あてもないまま会社を辞めた。
それでも約5年、勤めた。
そして、
今の会社に派遣社員として入社した。
入社して間もなく、車が壊れた。
今の勤務先は通勤距離が以前の4倍になった。
幸い、2万円程度で直すことができたので
そのまま乗り続けることにした。
「良かった。まだ、この子に乗れるんだ」
その時はそう思っていた。
約1年が過ぎ、
わたしは直雇用でその会社に入ることになった。
その直後、
愛車のエアコンが壊れた。
もしかすると
1年前、もう限界だったのかもしれない。
それでも頑張ってくれた。
「ぼくは はなれていくけど
きっと いまのキミなら がんばれる」
そんなエールをもらった気がした。
この日は小雨がパラつき始めていて
洗車場は人がまばらであった。
洗車をして、ふきあげ場で
いつも以上に丁寧にふきあげた。
事故もなく、1度もぶつけることもなく
とてもキレイな車だ。
最後にフロントランプ
フォグランプまわりをふきあげる。
しかし、
ふきあげてもふきあげても
水が出てくる。
「え、なんで」
何回も何回もふきあげても
どうしても水が出てくる。
もしかして、泣いてるの
車のフロントランプは
正面から見ると目の部分。
泣いているように見えてしまった。
わたしは人のいなくなった洗車場で
ごめんね
と声を出した。
別れが惜しいのは
わたしも愛車もだった。
そう思うと
この車にめぐり会えて
本当に良かった。
今まで、ありがとう
翌日、愛車は新しいオーナーの元へ
旅立った。
その目は輝いていた。
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