柚香光さんのこと。
柚香光さんが来年5月をもって退団する。
私が宝塚を好きになったのは高校2年生のとき。初めて観劇した演目に彼女も下級生として出演していた。
どんなきっかけでご贔屓になったのか覚えてないけれど、端正な顔立ちとその姿とは裏腹に素直で人懐っこい性格が私を魅了した。
花組トップとして久しぶりの生え抜きだった彼女だが、今現在までの道のりはそんなに甘くなかったと思う。
明日海りおという絶対的なトップスターの後での就任の苦労は想像に難くない。人事の都合で、少し早めにトップに就任した感は否めなかったし、明日海さんと同時に辞めた娘役も大勢いて、柚香さんのトップ就任前に実力派がゴッソリ抜けた。
お披露目公演「はいからさんが通る」はコロナ禍の影響でほとんど劇場公演が叶わなかった。トップスター就任後の1年間は思うようにいかない日々の連続だったと思う。
ようやく少し落ち着いて、千秋楽を迎えた彼女が、大粒の涙を流しながら観客に感謝を述べている姿を見て、この人を一生推そうと決めた。
もちろんルックスが素晴らしいのもあるが、私は柚香光さんの、持って生まれたものにあぐらをかかない謙虚さが大好きだ。
組み替えで異動してきた永久輝せあさん•星風まどかさんには、トップスターが音頭をとるのが恒例になっている花組ポーズを譲り、水美舞斗さんが二番手の羽根をつけた際には、劇団の事情を考慮しつつそのことに言及して喜ぶなど、他人への配慮を欠かさない姿勢。
自分の相手役や娘役を可愛い可愛いと愛でる娘役へのリスペクト。
どの公演にも全力投球で、千秋楽の挨拶では感極まって泣いてしまうところ。
トップスターとしての権限であるカーテンコールでの挨拶や言葉を、彼女は組子や周囲の人のために使ってきた。そんな彼女は私にとって、この10年間まさしく「光」だった。
限られた若い時代を全て芸事に捧げる覚悟。消費される存在とわかっていながらも観客の希望に応えようと努力をする姿勢。明確にある序列の中で戦う凛々しさ。そして、いつかは退団しなければならない有限性。宝塚歌劇はそういう場所だから、私は魅了され続けて来た。並々ならぬ覚悟でそれぞれの組がそれぞれの演目を完成させている。そして、120年の歴史を今もなお支え続けている。
今後、彼女を超えるご贔屓が私の中でできるとは到底思えない。残りの6ヶ月、全力で応援しようと思う。
最後の最後くらいは、周りのためではなく自分のために駆け抜けてほしい。退団後も芸能界に残るのかもしれない。宝塚時代には見られなかった新しい一面を見られるかもしれない。でも、宝塚歌劇というある種特殊な世界に身を置き、燦々と光り輝く男役•柚香光を見られなくなることがたまらなく悲しい。私はこの損失から立ち直れるのか…。