ジャリおじさん
絵本ふかよみ倶楽部
3月の課題絵本
ジャリおじさん
大竹伸朗
福音館書店
この絵本は、考察するというよりも素直に読んでもらって、没頭してみて「わー、なにこれ。楽しい!」「不思議ー」と、不可思議さに わくわくできる絵本、ブルース•リーみたいに’Don’t think!Feel.’って言う典型のような絵本かなあと思います。
好きか、苦手かといえば、
私は好きですね。
世の中には、多くの出会いや自分への旅のような顛末があるけれど、ジャリおじさんの海から海への旅も、そういう「世界への旅、自分との出会い」のひとつの物語。
不思議なようでいて普遍的でもあって、不可思議だから気になり心に残ります。
まさにナンセンス。
現代アートが絵本という媒体になって福音館書店「こどものとも」になって子どもの手に届いたということが事件に近いドラマだったんじゃないか?
しかも、コラージュでもなく、絵本のサイズが変更になったために切り貼りになった絵本だそうです。他で見たことありません。アバンギャルドすぎる。これは大変なことです。
大竹伸朗さんというアーティストは、「一番最初に描いた線が一番いいから」というこだわりがあり、描き直さずに間違えたら絵を切り貼りしたそう。絵本が描き上がった時に「これは年少向けではない内容だ」と編集者澤田さんの直感が働いて、対象年齢を変更したので、絵本のサイズが変わった。そこまでするポリシー。おそらく、「こどものとも」の編集会議で、年少版からの変更に伴う他の作品の調整が必要だったのではないか。編集者の澤田さんが、「作家さんの描きたい思いと子どもたちのわくわく」を繋いだ結果が、切り貼りの絵本になった。作家さんの世界観、作品をそのまま子どもに届けたくて、会議でぶっちぎり発言をしたであろう編集者澤田さん。かっこよすぎます。
この作品を世に出す挑戦を成し遂げた二人の男を、絵本ふかよみ倶楽部で讃える、とんちゃんこと絵本読み聞かせ講師上甲知子さんの語りがまた面白かったです。
「子どもはわかってくれる」という信頼に基づく冒険。
そもそも、わかんないこと、答えがないことこそ人生。誰もが見てひとつしか答えがないなんてことは、本来怖いことです。そんな、旅したジャリおじさんにでさえ本当の答えや意味も旅の終わりには未だ分からない、後になって「嗚呼これはこんな意味だったのではないか?」「ひょっとして自分は自分に出会ったのかもしれない」「目に見えない神さまに出会っていたのかもしれない」のです。そんな、ふむふむ大人が難解にしてしまう絵本を「ただ、あるがまま」9歳の息子は捉えていました。ツッコミどころも満載。それでいて読み手自身がついつい自己対話してしまう、深い絵本でもある。旅が終わった後も、ジャリおじさんの人生は続いていく。
芸術的なファンタジーに、昇華もしくはディフォルメされ、これは世界と人生を描いた「答えなんかない哲学」なんじゃないかと私は感じるのです。