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昭和6年の図書館の使命

昭和6年4月2日のことである。帝国図書館長の松本喜一が、「図書館の使命」と題して昭和天皇に対する御進講を行った。

聖上けふ御聴講 図書館の使命について
 天皇陛下には二日午後二時から宮中御学問所におかせられて御定例のお茶の会を催させられ松本帝国図書館長を召させられて図書館の使命についての御進講を約一時間聴召すされた、尚一木宮相、鈴木侍従長、奈良武官長も御陪聴を賜つた
東京朝日新聞1931年4月3日夕刊2面

このとき、松本は何を語ったのであろうか。奈良武次侍従武官長も聞いてるのなら日記に何か載ってるのではないか?と思って調べたけど、それは空振りに終わった。

いちおう、本人によると

我が国に於ける図書館発達の沿革と現在の情勢、英独米の諸国に於ける斯業の概況、近代図書館の意義と使命ならびに斯業の国際化等について一時間余に亘つて御進講申上げたのでありますが、陛下には終始御熱心に御聴取遊ばされたるのみならず、更に斯業の最も重要とする諸問題についてかずかずの御下問を賜はり、前後二時間に及んだのは洵に恐懼の至りに堪へざる所であります
松本喜一「御進講の恩命を拝して」『図書館雑誌』第25年第5号(1931年5月)p.163

というもののようである。

この4月2日は、色々あって、戦前の日本の図書館記念日とされていく。以前にも書いたが、戦前の4月2日の図書館記念日は松本が御進講をしたことを記念するものであって、別に書籍館開館を祝うとかいう趣旨は全然ないのである。

松本自身は、田中稲城の後任として帝国図書館長への就任が発表されるや、図書館問題の素人と言われて反対運動が起きたほどだった。ただ、1926年のアメリカで開かれた国際会議に出席してから、しきりに国際化ということを言うようになったのはポイントのように思われ、彼の図書館思想を考えていく上でのヒントになりそうな気はする。

あと、ここで「英独米」と上げているのも面白く、彼の部下であった岡田温が、「英国紳士型の印象」と回顧しているように(岡田「松本先生を思ふ」『図書館雑誌』第40年第2号、1946年7・8月)、イギリスのことはしばしば参考にしていたフシがあって、展示に力を入れながら大英博物館のことを引き合いに出している記事をどこかで見た。

松本については現在、鈴木宏宗さんの研究が一番詳しい。


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