佐藤彰宣『〈趣味〉としての戦争』
反戦平和教育のなかで、「戦争と軍事科学のやさしくて高級な専門雑誌」を標榜することで刊行を続けてきたミリタリー雑誌『丸』に関する初の包括的な研究。
読者投書などを用いながら、読者の世代分析を行い、時代を経るごとに読者が高齢化し、『丸』の誌面の多くを占めていた戦争体験の語り手が変化していくことを指摘しているのはおもしろい。
また、回想や戦記物の記事が人気を集め、一方でメカに関するファンの要求をうまく取り込めず、戦艦や軍用機に関する記事がセグメント化して分離していく過程も指摘されている。
これは戦後日本におけるミリオタの変貌を、雑誌研究で用いられるオーソドックスな手法を活用して描き出した作品で、雑誌研究をするならこういうことはしなければいけないというお手本のような本でもある。これから雑誌研究する人は見習う点も多いだろう。
ただ、これは方法論上やむを得ないことかもしれないが、一つの雑誌の誌面分析に徹しているため、一次史料を用いた分析や、同時代的の政治史などとの関連性、社会に与えた影響などの分析は、もうちょっと検討の余地があるようにも思った。
とはいえ、現在進行形で戦争と軍事科学の検討が急務となっている昨今、『丸』の軌跡を振り返る本書をひもとくのも大事だろう。