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佐藤卓己『言論統制』増補版

同僚の白戸先生と学生と一緒に図書館のセミナー室を借りて読書会を開いた。

2004年に刊行された同書の、さらに新たな史料を追加しての増補版である。鈴木庫三のエゴドキュメントの刊行と合わせて、鈴木について色々と考える機会になった。

飲みニケーションが嫌いでやりくりに没頭。マメに日記を記しながら、華美なブルジョア文化に敵意を隠さない。筑波山を眺めながら育った茨城の田舎出身の軍人を、読みながら好きになったり、嫌いになったりしつつ読んだという学生の声を聞いた。

また、海軍と陸軍、軍部と知識人、皇道派と統制派、総力戦体制論における戦前と戦後…というような、戦後の評価を既定し、高校日本史にもなお受け継がれているようなある種の二元論的・図式的な見方を、鈴木の軌跡(それが本書の狙っているところでもあり、同時に魅力でもある)から相対化できるような話が学生とおしゃべりできたのは、ありがたい機会だった。

教員が二人いると、話がふくらんで、関連して読んだ方が良い本も次々と紹介できた。これはいいかもしれない。


読書会の前に、私の方では旧版と増補版を、小見出しのレベルまで書き出して対照する表を作った。見出しまで詳細に比較すると見えてくるものがあると思ったからだ。

そこで強く印象に残ったのは、メディア史と教育史との断絶を指摘し、それを埋めようとしながら、「教育」の学に果敢に関わっていこうとする40代の著者の姿であった(何より、軍人は教育者だ、というテーゼは、普通の軍事史だと出てこないと思うし、内務班といじめというような現代的テーマへの示唆も、本書初版から見られる)。


とくに増補されているのは本書の主題に関わる3・4・5章で、二・二六事件関係の節がまるまる増えているほか、新たに追加された箇所で一番知りたいと思ったのは、やはり評論家のブラックリストであろうか(本書に登場しないあの人やあの人はどうだったのか???というのが大変気になる…)。講談社や岩波書店関係のエピソードも追加されている点も、重要だろう。

増補版のあとがきも、メディア史研究の20年の展開を知るうえで重要な記述である(金子龍司氏の著作にも触れている)。

あわせて、こうした最新の成果を学生と共有していくために、さらに色々な取り組みをしていかなければとも思った。


※白戸先生もnote記事を書いていらしたのでリンクをはります。


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