鈴木庫三と松永健哉
学生が卒論に選んだテーマから教わることというか、一緒に関連の文献を読んで考えるなかで、自分自身が学ぶことは多々ある。
国策紙芝居に関しては、神奈川大学などで包括的な研究も出ていて、卒論指導の際にとても参照させていただいた。
論文を書き上げた学生がめでたく卒業したあとも、教員は教員で、そこに出てきたテーマや人名は心に残っていて、新しく出た本を読んでいるときに「あのときこの本があったら伝えられたのに!!」と思ったりすることも、間々ある。というか、その人にふさわしい本を自分が教えたい気持ちのようなものは、図書館員だったからか、ひょっとすると他の同業者より強いかもしれない。それができなかったことがひどく悔しかったりもする。
調査・研究活動は続いているようで、ニュースになったりすると、思わず唸らされることも。
以前、指導した学生が戦時中の「国策紙芝居」を調べていたのだけれど、卒業後に刊行された佐藤卓己『言論統制』の増補版を見ていたら、鈴木庫三と、国策紙芝居の推進者松永健哉との関係が292頁以下に詳述されていた。
鈴木日記にも出てくるようであるし、何より、松永が陸軍報道部員として広東にわたった後、1940年1月に帰ってきたあとも「鈴木少佐は松永の国策紙芝居運動を支援し続けた」とし、松永の紙芝居研究会座談会に出席している。引用されている日記だと、相手は小学校教員で、「案外話がはづんで」夜まで続いたという。
松永は昭和前期の街頭に見られた紙芝居の俗悪さに怒って教育紙芝居を始めたわけだから、やはり出版物の俗悪さに怒って教育に力を入れなければと考えていた鈴木と、意気投合したんだろうなと思う。この話を知っていたら、また違った卒論の指導もできただろう…。
同じようなことは、以下の本では、国史劇を通じて、子供たちがどうやって戦時体制に組み込まれていったか、研究の視点としてとても大事な議論を展開していると感じた。
研究をしている限り、おそらくこういうことの連続なのだろうが、学ぶべきことにきりはないなと改めて。
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