有山輝雄『近代日本メディア史』Ⅰ・Ⅱ
メディア史研究者待望の書。
私が2023年夏に読んで最も勉強になった本でもある。
1990年代以降の日本のメディア史研究の集大成ともいえるもので、江戸時代の叙述から始まり20世紀のテレビまでを見通す本書の射程は広く、壮大である。
朝日新聞にも著者インタビューが載っている。
本書は新聞や放送など報道を中心にしたメディア史の記述であり、序でも断られているように、娯楽メディアの歴史や、受け手、読者の歴史は、基本的には対象外とされている(もちろん著者がそれに無関心なわけではないのは、例えば『近代日本のメディアと地域社会』で分析された福島県の阿部回春堂の事例を見れば明らかである)。
それでも、註に掲げられていた文献や史料を見ているだけで「知らなかった!こんなものがあったのか」という発見の連続で、いかに自分が不勉強か思い知らされるのと同時に、メディア史研究会30年の歴史が積み上げてきた研究蓄積の厚みに、感動を覚える(実際、『メディア史研究』掲載論稿など、研究会での発表の成果が本書に多く活用されている)。
本書を通して個人的にたくさんのことを教えられた。例えば明治初期の「新聞紙印行条例」のこと、1920年代の出版物法案をめぐる議論、初期の放送史をめぐる議論。
1945年1月に政府が行なおうとしたメディア統制の模索や、原爆報道の在り方など、従来のなんとなくの思い込みの誤りを正してもらう記述にもたくさん出会った。
著者は本書について、「一定の進展をみせてきたメディア史研究の次のステップのための踏み台になれば幸いである」(「メディアの歴史を見るということ」『本郷』2023年9月号)とも語っているが、その言葉は重い。これだけの先行研究と史料とを取り上げ、議論が展開されるなかでも、註の中には次に向けた課題やヒントが示されている。それに答えていくことができるか、が問われている。