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ドイツ在住トルコ人と交流して感じた浦沢直樹と『MONSTER』のすごみ
トルコのサッカークラブ、アダナ・デミルスポル(以下デミルスポル)に興味をもったことをきっかけに、デミルスポルの「日本最初の」サポーターと呼ばれ、SNS上でトルコ人と交流するようになった。定期的に連絡を取り合う一人にドイツ在住のトルコ人男性がいる。今回は彼と交流したときのちょっとした小話を書いていく。
彼は日本のアニメやマンガがとにかく大好きだ。おそらくアニメならまったく見ない僕よりうんと詳しいだろう。彼の大好きなアニメ・マンガ三傑が、浦沢直樹『MONSTER』、三浦建太郎『ベルセルク』、青山剛昌『名探偵コナン』である。
タイトルを聞いて興奮した。『MONSTER』は僕が大学時代にブックオフで買い込んで夢中になって何度も読んだ作品だからだ。浦沢直樹作品の中で一番好きな作品である。冷戦後のドイツとチェコを舞台に、天才日本人外科医のテンマと、彼がかつて救った"怪物"ヨハンとの対決を軸にしたサスペンスだ。物語の背景に冷戦や東西統一前のドイツ、共産主義国家の闇などの社会情勢も深く関係しており、旧東側の空気感やすえた感じを描写から濃密に感じる。僕に冷戦や東側諸国への関心を呼び起こしてくれた作品だ。
トルコ人の彼も作品に対して似た気持ちを抱いており、「この作品であの頃のドイツの空気感を知ったよな」という話で少し盛り上がった。このときはまさか自分が好きなマンガについてトルコ人と気が合った嬉しい気持ちになって終わった。
だが待ってほしい。振り返ってみると彼はドイツ在住である。『MONSTER』はドイツが舞台だ。さらにトルコ移民の話も出てくる。だが彼はそれらの描写に強い違和感をもたず作品を楽しんでいる。これって結構すごいことなんじゃないだろうか。
浦沢さんが描くためにドイツに行ったことがあるかわからないが、居住歴はない。ドイツに住んだことのない日本人が描く「ドイツ舞台のマンガ」をドイツ在住者が描写に違和感なく面白がっている。日本に住んだことがない外国人が描く「日本舞台のマンガ」を僕らが描写に違和感なく楽しむということを想像すると、そこまで多くはないだろう。ドイツ在住の人も納得する描写で「ドイツ舞台のマンガ」を描ける。浦沢さんがすごいマンガ家なことは百も承知だが、改めて彼の凄みを感じたのである。
とはいえ僕が交流した人が人生で接してきた環境や日本好き具合もあるし、一概に『MONSTER』の描写がドイツ在住者のお眼鏡にかなうとは限らない。あくまでも僕が感じたささやかなエピソードであることを留意しておく。
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