即興小説15分 36 廃工場 砂時計 引退した時計職人
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僕のおじいちゃんは時計職人だった。文字盤に数字を書いたり、針を埋め込んだり、そして時には壊れてしまった時計を直したりしていた。そんなおじいちゃんも職人を引退して、いまは隠居生活を送っている。
ある日、僕がおじいちゃんの家に言って時計職人だったときのことを尋ねると、おじいちゃんはこんな提案をした。
「わしの工房に行ってみるかね?」
そうしておじいちゃんに着いて行ってたどりついたのは、倉庫のような場所だった。でも屋根が変な形をしている。変に縦長で、まるで砂時計のようだ。
「この建物もおじいちゃんが作ったの?」
「そうだよ。おじいちゃんはものづくりが好きだからねえ」
中に入ると、そこはまるで小さな工場のような場所だった。いろいろな道具と材料が置いてある。
「そろそろここも整理せねばいかんのう」
「じゃあ僕がもらう!僕も時計職人になるんだ!」
「そうかそうか。では作り方を教えておかんとのう。まずは……鳩時計だ」
そうしておじいちゃんは木材を持ってきた。
「これを削って鳩の形を作るんじゃよ」
「え!そんなことまでするの?」
「そうじゃよ。時計職人はいろいろなことができなければ務まらん。木彫りの技術に、針を動かす内部構造の仕組みまで……たくさんの技術が必要なんじゃよ」
「そうなんだ……!思ったより大変だなあ」
「それじゃあ、おじいちゃんが作ったお手本を見せてあげよう。まだ残っているのがいくつかあるんじゃ」
そう言っておじいちゃんは部屋の奥へと行った。戻ってきたときには、両手に箱を抱えていて、その中にはたくさんの時計が入っていた。
「これは懐中時計。針がおもしろい形をしているじゃろ?これはダリの絵画から着想を得たんじゃ。これは実際に鉄の針を溶かして作ったんじゃよ」
「じゃあこれは?壁にかけるの?」
「そうじゃ。しかしそれだけではないぞ。12時になると音楽が流れ出すんじゃ」
そう言っておじいちゃんが針を12時に合わせると、綺麗な音色の曲が流れ出した。
「オルゴールみたい!」
「おっ、勘がいいのう。実は時計の針とオルゴールが連動しているのじゃ。だからこんなふうに曲が流れるんじゃよ」
おじいちゃんが作る時計はただの時計じゃなくて、いろいろな仕掛けがほどこしてある。まるでびっくり箱だ。
「じゃあじゃあ、おじいちゃんがいままで作った中で一番好きな時計はなんなの?」
「いい質問じゃ!それでは見せてあげよう。こっちへおいで」
そうして僕は外へ連れ出された?
「どこにあるの?」
「上を見てご覧」
「……まさか、あの屋根の上にあるのって……」
「そうじゃよ。砂時計じゃ」
この場所に来た時に変な形をしていると思っていたのが、まさか本当に時計だったなんて……。
「でもあれじゃあ時間を計れないよ」
「ほっほっほ。そう言うと思ったわい。まあ見ておくれ」
おじいちゃんはいつのまにか手にコントローラを持っていた。
「スイッチ、オン!」
ボタンが押されると、屋根の上の砂時計が光出す。そしてゆっくりと回転し、逆さまになった。中に入っていた砂時計が落ち始める。
「わあ……!すごい、すごいよ、おじいちゃん!本当に砂時計だ!」
「喜んでもらえるとがんばって作った甲斐があるのう」
「でもおじいちゃん、この砂時計はなんの時間を計っているの?落ちるまでまだまだ時間がかかりそうだけど……」
「またまたいい質問じゃ。それはのう……」
おじいちゃんが深刻そうな顔をする。
「わしの寿命じゃ」
「えっ……ええ~~っ!?!?」