即興小説15分 10 宇宙ステーションの展望室、割れたガラス片、記憶を失ったエンジニア
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地球が嫌いだった。たくさんの人間がいて、争い、戦い、死んでいく。そんな、人間という愚かな生物に支配された地球が嫌いだった。
だから私はエンジニアになった。いつか、この地球を飛び出して、誰もいない宇宙で暮らしたいと、そんな夢を抱いていた。
夢は叶った。宇宙ステーションを作るプロジェクトに参加し、私はエンジニアとして、宇宙飛行士たちと共にそれに乗り込むことになった。宇宙にいられるのは一週間という短期間だった。地球嫌いの私が、そんなもので満足するわけがない。
宇宙ステーションの設計に携わっていた私は、こっそりと宇宙ステーションにある機能を追加していた。これにより、宇宙ステーションは分離して、宇宙飛行士たちと私が乗り込む場所が離れるようになっている。分離したあと、宇宙飛行士たちの乗ったステーションは地球へ帰るが、私の乗り物は宇宙にいたままだ。燃料はたんまりとある。
ここまで計画を立てるのにそうとう苦労した。もとより、設計に携わっているのはごう少数で、また私が一番知識が豊富で指揮をとっていたこともあり、予算、設計、燃料、計算、ありとあらゆる場面で融通が効いた。バレないように、慎重に動いていた成果が出た。
そうして、宇宙ステーションは飛びたった。私と数人の飛行士がのっていた。
一週間が経った頃、私は計画を実行した。ステーションを操作し、分離を進める。飛行士たちが気がついたときにはもう手遅れだった。分離は始まっている。私は手を振った。
「さようなら」
慌てる宇宙飛行士たちを横目に、私は宇宙をただよった。
素晴らしい心地だった。誰も私の邪魔をしない。地球という、球のこの上ない監禁部屋を、ついに脱した。嫌いな場所を脱したその喜びで私は満ち溢れていた。
展望室へと移動し、地球を眺める。ひどい眺めだ。いつかこの青さは人間たちによる汚染で汚されるだろう。私は人間が嫌いだ。人間という史上最悪の生き物を生み出した地球が嫌いだ。
そうして優雅な旅を続けていたが、それは唐突に終わってしまった。ステーション内に警報が鳴り響く。緊急事態が発生したことを知らせるものだった。急いで確認すると、スペースデブリ(宇宙を漂うゴミ)によって、分離した宇宙ステーションの一部が破損したようだった。修繕しなければと向かうが、だめだった。割れたガラス片があたりに飛び散っている。それは私の脳を突き抜けた。
ここはどこだろう。随分と寝ていた気がする。私は誰だ……?ここはどこだ……?
なんだか、すごく難しそうな機会がある。あちこちに配線やスイッチがあって、落ち着かない。でもなんだか、不思議と見覚えがあった。私はこれを知っているような気がする。
ふっと何か光景がよぎった。数人が集まって会議をしている。だがその映像はすぐに消えた。
ああ……もしかして、わたしは記憶を失っているのか……?そういえば、ここは宇宙ステーションで……私は、なぜ一人なのだろう。
そのとき、ものすごい風が吹いた。ステーションの一部分が破損し、扉が開いている。私は宇宙へと放り出された。
ひどい心地だ。頭が痛い。ああ、きっと私は死んでしまう。宇宙服を着ているから、でも、それにはまだきっと時間がかかる。
視界の端に何かが映った。丸い、青い、何かだ。
「……きれいだ……」
とても美しかった。きらきらと輝いて、青くて、まるで宝石のようだ。
「行って、みたいな……」
そんな言葉がぽろりと溢れでた。あの星で、楽しく暮らしたい。幸せに、なりたい。
いや違う、私は、幸せになりたかった。
みんなと一緒に、あの地球で、幸せに、なりたかった……。