即興小説15分 31 ネットカフェの防音個室 古いゲーム機のコントローラー 顔の半分を黒いマスクで隠した配信者

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 私には好きなゲーム実況者がいる。その名もマスクメロンさん。メロンの柄が書いてある黒いマスクを付けて配信をしている人だ。ところが最近、毎日のように配信をしていたマスクメロンさんが音沙汰なく何日も配信を休んでいる。SNSの投稿もなく、ファンが集まるコミュニティにも不安が満ちていた。ついこの間までは楽しく配信していたのに、何があったのだろうか。

 そう思っていると、突如、私のスマホに通知が来た。動画サイトからだ。

「なになに?マスクメロンさんが配信を開始……え-!?!?」

 急いで配信に向かうと、私と同じように急いで駆けつけたであろうファンが数百人ほど集まっていた。

 画面の左上にマスクメロンさんの顔が映っているが、背景がいつもと違う。

『こんばんは。こんばんはー……いやあねえ。ご心配おかけしました……実はちょっと家のネット回線がおかしくって、業者さんも呼んだんですけどぉ……』

 なるほど、マスクメロンさんの身に何かがあったわけではなく、回線が原因らしい。一安心する。

『で、家で実況ができないんで……ネカフェに来ました!!ネカフェ配信です!!防音の個室借りたんですよ。あと機材も持ってきました。このカメラと、あとマイクも』

 コメントはめずらしい状況に盛り上がりを見せている。

『んで俺びっくりしたんだけど、見てこれ。ゲームキューブがあるんですよ。懐かしすぎない?最初はねー、ソフトもないしブラウザゲームでもやろうかなって思ってたんですけど、せっかくなんでちょっとこれで遊んでいこうと思います。ゲームの種類もね、選べたんで。懐かしのマリオパーティを一人でコンピューター相手にやっていこうと思います!」

 なかなかゲームの取り揃えがいいネットカフェらしい。あまり行ったことがないのでネカフェがどのようなものかは疎いが、とりあえず調べてみる。この前投稿していた飲食店での写真と、引っ越し後の配信で行っていた物件の情報から考えるに、おそらくこのあたりのネットカフェで……かつゲームの種類が豊富にある場所は……。

「ここかなあ?」

 出かける準備をする。綺麗にメイクをして、髪を整えて、服も選ぶ。マスクメロンさんはまだゲームの序盤だし、急がなくても十分に間に合うだろう。

 そうしてマスクメロンさんの配信を聴きながら外へ出て、目星をつけたネットカフェへと向かった。

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