即興小説15分 37 水上ステージ カメラ 手品師
1832字
15分と言いつつ25分
とある総合公園。なんだか人だかりができていたのでふと立ち寄ってみると、何やら池の周りでイベントをやっているようだった。人混みをかきわけてなんとか見える位置にまで来ると、わかったのは池に浮島があるということだった。それから、その上に人が乗っているということも。
「えーお集まりいただきまして、ありがとうございます。これよりマジックショーを行いたいと思います。進行は私、手品師の……」
そういって浮島に乗っていた男は手をかかげる。どこからともなく一羽の鳩が現れた。
「鳩ぽっぽピジョンと申します。よろしくお願いいたします〜!」
拍手が湧きおくる。名前はさておき、突然鳩が出てきたことには驚いた。だが私はこのマジックのタネを知っている。鳩は狭いところにいるとおとなしくなる習性があるのだ。それを利用して体のどこかに隠していたのだろう。
「それではですね、みなさんには一つ、お願いがあります。このマジックショー、写真や動画の撮影がですね……」
鳩ぽっぽピジョンの言葉に、カメラやスマホをかかげていた観客がその手を下ろそうとする。
「なんと、めちゃくちゃOKです!!逆にですね、ぜひとも皆さんには、これからのマジックショーを撮影、できれば録画していただきたいなと思います。お家に帰ってね、あとで見返せるようにしてください」
ずいぶんと自信ありげな口調だ。マジックはスロー再生されたら都合が悪いのではないのだろうか?それほど自分の手に自信があるということか。せっかくなので私もスマホをだして動画を撮ることにした。
「それではまず、せっかくの水上ステージなので、機材を全部水に落としてしまいましょう!」
言うが早いが、鳩ぽっぽピジョンは浮島に乗せられていた机や小道具たちをすべて池の中に落としてしまう。観客から悲鳴が上がった。
「まあ、これだとマジックができないのでね、いまから皆さんにはちょっとの間、目をつむっていてもらいたいなと思います。ほんの5秒くらいでいいのでね、私が数を数えている間は目をつむっていてくださいねー」
そうして鳩ぽっぽピジョンは数を数え出す。私は逆張り主義なので、もちろん目はつむらなかった。
何をするのかと見ていれば、突然、水の中に飛び込んだ。水の音に、またもや観客からどよめきが広がる。私もこれには驚いた。まさか鳩ぽっぽビジョンは力技で機材を運び出すのだろうか。
そうして瞬きをした瞬間だった。あっというまに機材が元通りになっている。いったい何が起きた……?
「はい、それでは目をあけてくださ〜い」
目をあけたのであろう観客から拍手が湧き起こる。が、鳩ぽっぽピジョンの姿がどこにもない。どうしたのかと見ていると、水の中から浮島へと這い上がってきた。
「はあ……っ、はあ……っ、この時期の水は冷たい!!」
笑い声が広がる。手品師は体を張るのも仕事なのだろうか?
そうしてマジックショーは進んでいき、終わった。私は家に帰って最初の手品の動画を見返すことにした。トリックがまったくわからない……というか、あんなの不可能だ。水に落とした機材がまるごと戻ってくるだなんて。
絶対に見破ってやると意気込んで再生する。動画はすぐに例の場面になった。
『それではまず、せっかくの水上ステージなので、機材を全部水に落としてしまいましょう!』
記憶通りだ。このあと、一瞬で機材が浮島の上に戻ってくることになる。
鳩ぽっぽピジョンが、水の中に飛び込んだ。このあとだ。
じーっと画面を見つめる。
すると、突如として空間が揺らいだ。まるでかげろうでも立ち上っているみたいに。
そうして次の瞬間には……浮島には大量の鳩がいた。
「え?」
記憶と違う。このあと、浮島には機材が並んでいるんじゃ……。
『えー、おそらくこれを見ている皆さんは、動画を撮ってくださったと思うんですけれど』
気がつけば鳩ぽっぽピジョンが浮島の上に立っていた。
『これはですねー動画を撮った方だけがみることができる映像なんですねー。どうでしょう?』
意味がわからない。どうして撮った映像と違うものが流れているんだ。
『あっ、もちろんハッキングとかしてないのでね。そこは安心してくださーい。それでは一つ、手品を』
そう言うと鳩ぽっぽピジョンはパチンと指を鳴らした。一斉に浮島の鳩たちがいなくなる。
『イリュージョ〜〜ンっ!』
そうして鳩ぽっぽピジョンは消えた。