即興小説15分 4 森の中の廃墟、壊れたオルゴール、旅の占い師
1439字
旅をしていると、さまざまな人に出会う。親切な人、怖い人。でも大概親切だ。
出会うのは人だけでなかった。物も同じだった。行商の持ってきた物や、親切な人がくれたもの。そういった品々は壊れないように、大切に荷物の中に入れておく。だから旅をしているとしだいに荷物が増えていく。
僕はそんな人たちにお礼に占いをする。いい未来が待ち受けていますようにと願いながら。
けれど僕はいま、とてもいい未来をたどっているとは言えないかもしれない。迷ってしまった。それも森の奥深くで。道を教えてくれる親切な人はいないし、もうじき日も暮れるそうだ。近道をしようと思って軽率に足を踏み入れたのがいけなかった。生い茂る森をただひたすら突き進む。それ以外に道はない。……いや、そもそも誰も立ち入るような場所ではないから道はないんだけれど。
一向に出口が見えずに困り果てて、僕は手頃な岩に腰を下ろした。疲労もある。このまま、この場所で一晩を過ごすしかないだろうか。いや、一晩だけならいい方かもしれない。生涯この場所で暮らす羽目になったらいよいよ困ってしまう。
どうしたものかと考えて、ふと思い出した。僕は占い師だ。どうしようもなくて困ったときは、占いに頼ればいいのだ。
さっそく荷物から道具を取り出して、準備を始める。旅をしているとそう多くは持ち歩けないので、極めて簡易的な物だ。それでも実力があれば精度は上がる。
束にカードをシャッフルして、一枚を引き抜く。これは……方角ならば西を示すカードだ。西。つまり太陽が沈んでいる方角。
西に歩いていけばいいのか。いやしかし、これはまた草と木が生い茂っていて歩きづらいが……。他にどうすることもできないので、とりあえず突き進んでみる。
そうして歩いていって、驚いた。突然開けた場所に出たかと思いきや、そこには家が立っていた。いや、家というより廃墟だろうか。ぼろぼろで、人は住んでいなさそうだ。
しかしここならば雨風をしのげそうだ。一晩ここで寝るのもありかもしれない。そう思って、廃墟に立ち入る。扉を開けるのにも一苦労した。
中は案外綺麗だった。家具がそっくりそのまま残っている。誰が住んでいたのだろう。
ひとまず中をぐるりと一周見終わった。その中で不思議な道具を見つけた。木を加工するのに使うのだろうか。彫刻刀がおいてある。何かの職人が住んでいたのだろうか。
元の場所に戻ってきて、ソファに腰を下ろした。座り心地が悪い。ふと、机の上に何かを見つけた。これは……小さな箱、だろうか?
おそるおそる中を開けた。その瞬間、綺麗な音色が耳に入ってきた。
「オルゴール……?」
カチカチと小さな音を立てながら、曲が始まる。しとしとと穏やかな雨が降る日の情景を描いたような、優しい音。よく見れば、箱の奥底で銀の鍵盤がはじかれている。
思わず聞き入り、しだいにゆっくりと速度を落として曲は止まった。もしかすると、ここに住んでいた人の自作かもしれない。
もしこれを作った人がいるならば、感想を言いたかった。けれど相手はいない。このオルゴールは、どんな気持ちでここにいたのだろうか。持ち主がいなくなり、ずっと一人で。
決意した。このオルゴールを持って帰ろう。そうして道行く人に聞いてもらおう。
旅をしているとさまざまな人に出会う。オルゴールを通して、僕はこのオルゴール職人に会えたような気分になった。荷物の中に、オルゴールを大切に大切にしまった。