即興小説15分 25 都会の大規模ショッピングモールの地下駐車場 壊れたドローン 自称未来から来たと主張する少年

1228字

 俺は地下駐車場にいた。都内にある大規模なショッピングモール、その地下だ。休日だから駐車場もいっぱいで、自分の車を探し出すだけでも一苦労だった。

 道に迷いながらなんとか見つけて、車に乗り込む。

「おじさん」

「わ!?」

 突如、背後から声がして振り返ると、少年がいた。

「な、なんだお前は!?勝手に人の車に乗り込んで……!」

「ちょっと移動場所を間違えちゃったみたいで。申し訳ない。都合が悪いのであればすぐに降りるよ」

「当たり前だ!ほら、さっさと出ていってくれ!」

 少年は小学生くらいの見た目をしていたが、その物言いは妙に大人びていた。車をおりて少年を引き摺り出す。すると、手に何かを持っているのが見えた。

「なんだ、それは……?」

「ああ、これ?ドローンだよ」

「ドローン?」

「ああ。でもここだけの秘密、ドローンに見せかけたタイムマシンだ」

「は?」

 何かのごっこ遊びをしているのだろうか。少年は続ける。

「でもただタイムマシンのような形をしていてはだめだから、ドローンに偽装してあるんだ」

「ほーん。それでお前は過去からやってきたと」

「いや。未来から来たよ」

「はっはっは。そうかそうか。なんだか面白い設定の遊びだな。しかしあいにく俺は急いでいるんだ。とっとと迷子センターにでもいって親御さんのもとにいってくれ」

 そう言うと少年は目に見えて不機嫌そうになった。俺の手をがっしりと掴む。

「僕は未来からやってきた。そしてこのドローンもといタイムマシンは壊れてしまって、もう戻れない」

「それは自業自得だな」

「でも僕はそれでいいんだ」

 落ち着きはらった少年の声に、つい振り向く。強い眼差しだった。

「僕は一年後からやってきた。そして……一年前の今日、このショッピングモールでは大規模な火災が起きたんだ」

「……火災?」

「ああ。死者は725名。この地下駐車場が火元だ」

「……君の悪い嘘はやめた方がいいぞ、少年」

「嘘ではない。この火災は放火魔のしわざだ。僕はその放火魔を止めに来た」

「そうか。ではその放火魔とやらを探してくれ」

「もう見つけてるよ。おじさん」

「……」

 少年の言葉は、嘘ではないような気がした。なぜならば、俺の次の行動をぴたりと言い当てられたから。

「さっき、車の中で見たよ。よく燃えそうな燃料がたくさん積まれていたね。このあと、このショッピングモールに放火する予定だったんでしょ?でもそこに僕が現れた」

「そうだな。で、少年。俺を捕まえる目的はなんだ?あるいは捕まえて何かしたいのか」

「この火災で僕の両親は死んだ。その復讐をしたいと思っていたけれど、まだおじさんは罪を犯していない」

 少年は苦しそうに顔をしかめた。憎しみの目だった。

「養ってほしい」

「は?」

「養ってほしいんだ。おじさんのせいで親が死んだから、身寄りがない。責任をとってほしい」

「……」


 これが俺と少年の生活が始まったきっかけだった。

いいなと思ったら応援しよう!