即興小説15分 25 都会の大規模ショッピングモールの地下駐車場 壊れたドローン 自称未来から来たと主張する少年
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俺は地下駐車場にいた。都内にある大規模なショッピングモール、その地下だ。休日だから駐車場もいっぱいで、自分の車を探し出すだけでも一苦労だった。
道に迷いながらなんとか見つけて、車に乗り込む。
「おじさん」
「わ!?」
突如、背後から声がして振り返ると、少年がいた。
「な、なんだお前は!?勝手に人の車に乗り込んで……!」
「ちょっと移動場所を間違えちゃったみたいで。申し訳ない。都合が悪いのであればすぐに降りるよ」
「当たり前だ!ほら、さっさと出ていってくれ!」
少年は小学生くらいの見た目をしていたが、その物言いは妙に大人びていた。車をおりて少年を引き摺り出す。すると、手に何かを持っているのが見えた。
「なんだ、それは……?」
「ああ、これ?ドローンだよ」
「ドローン?」
「ああ。でもここだけの秘密、ドローンに見せかけたタイムマシンだ」
「は?」
何かのごっこ遊びをしているのだろうか。少年は続ける。
「でもただタイムマシンのような形をしていてはだめだから、ドローンに偽装してあるんだ」
「ほーん。それでお前は過去からやってきたと」
「いや。未来から来たよ」
「はっはっは。そうかそうか。なんだか面白い設定の遊びだな。しかしあいにく俺は急いでいるんだ。とっとと迷子センターにでもいって親御さんのもとにいってくれ」
そう言うと少年は目に見えて不機嫌そうになった。俺の手をがっしりと掴む。
「僕は未来からやってきた。そしてこのドローンもといタイムマシンは壊れてしまって、もう戻れない」
「それは自業自得だな」
「でも僕はそれでいいんだ」
落ち着きはらった少年の声に、つい振り向く。強い眼差しだった。
「僕は一年後からやってきた。そして……一年前の今日、このショッピングモールでは大規模な火災が起きたんだ」
「……火災?」
「ああ。死者は725名。この地下駐車場が火元だ」
「……君の悪い嘘はやめた方がいいぞ、少年」
「嘘ではない。この火災は放火魔のしわざだ。僕はその放火魔を止めに来た」
「そうか。ではその放火魔とやらを探してくれ」
「もう見つけてるよ。おじさん」
「……」
少年の言葉は、嘘ではないような気がした。なぜならば、俺の次の行動をぴたりと言い当てられたから。
「さっき、車の中で見たよ。よく燃えそうな燃料がたくさん積まれていたね。このあと、このショッピングモールに放火する予定だったんでしょ?でもそこに僕が現れた」
「そうだな。で、少年。俺を捕まえる目的はなんだ?あるいは捕まえて何かしたいのか」
「この火災で僕の両親は死んだ。その復讐をしたいと思っていたけれど、まだおじさんは罪を犯していない」
少年は苦しそうに顔をしかめた。憎しみの目だった。
「養ってほしい」
「は?」
「養ってほしいんだ。おじさんのせいで親が死んだから、身寄りがない。責任をとってほしい」
「……」
これが俺と少年の生活が始まったきっかけだった。