ニアジョイ(≒JOY) 2nd『初恋シンデレラ』 MV感想
どうでもいい前日譚
今から書く『初恋シンデレラ』公開前の不安は後から振り返ればどれも杞憂だった。
しかし、個人的には「ニアジョイらしさを考えるきっかけ」
になったので記録として残しておきたい。
MVの内容には触れていないので、感想を読みたい方は是非読み飛ばしてほしい。
ニアジョイのファーストソング、『≒JOY』という曲の歌詞の一説である。
ニアジョイ初のオリジナルソング、グループ名を題したこの曲で
アイドルは恋愛ソングを歌うものという常識からかけ離れたこの歌詞に
脳天を撃ち抜かれたオタクも多かったのではないだろうか。
かく言う私もその1人である。
それから13曲のオリジナルソングが作られたが、そのどれもが恋愛以外をテーマにした曲だった。
2024年8月24日
以前から告知されていた秋から始まるホールツアーのFC先行受付が開始された。
申し込み開始に伴ってツアータイトルも発表された。
ツアータイトルは『今日から君は恋人』
ん? 恋人……!?
本当にあの、愛でも恋でもなく夢を歌うグループであるニアジョイのツアータイトルなのか!?
この時既に2ndシングルの発売日は告知されており、秋のホールツアーが2ndシングルを引っさげてのツアーになることは明らかだった。
まだタイトルも発表されていない2nd シングルはおそらく恋愛ソングだろう。
何も別にニアジョイが恋愛ソングを歌うことに否定的なわけではない。
これまでだって、まだニアジョイにはオリジナルソングが少ない為、単独コンサートでは先輩グループの恋愛ソングをカバーしていた。
オリジナルソングはかっこいい曲やパワフルな曲が多いから、むしろ恋愛ソングで可愛い曲をやってくれるのはライブ全体のバランスが取れていいなと思っていたくらいだ。
だからニアジョイにも可愛い曲が増えたらいいなと思っていたし、なんだかんだ恋愛というテーマはいろんな感情を内包しているため多様な曲のモチーフとなりやすく、これからたくさんの曲を作る上では恋愛曲を避けては通れないだろうと考えていた。
でも、変化はもっとさりげなくやってくると思っていたのだ。
例えば、表題曲は今までと同じ夢コンセプトでカップリングのみ恋愛曲がしれっと登場するとか
はたまた、ニアジョイらしいかっこいい曲調だが、よくよく歌詞を聞いてみたら恋愛ソングだとか
そういった具合に
『今日から君は恋人』
このストレートな言葉からは可愛らしい王道恋愛ソングしか連想できなかった。
そしてそれは、私が思うニアジョイらしさとはかけ離れていた。単純に、誰かに恋焦がれているニアジョイが全然想像できない。
私の中のニアジョイのイメージは
なので、
相手から憧れられ好かれることはあれど
彼女らが誰かに夢中になるが故に心をかき乱されている姿など全然想像がつかない。
端的に言うと解釈違いだ。
世の中にはアイドルグループなんて沢山あって
傍からみればどれも同じように見えるのだろうが
私にとってはニアジョイだけが特別だった。
他のグループと何が違うのかと聞かれても
上手く説明することはできないが
確かに私はニアジョイにしかない魅力に惹かれたのだ。
だから、好きなアイドルグループが変わって行くのは不安だ。
表題曲が私の好きなニアジョイから大きく外れるものであっても、
今さら引き返すにはメンバー1人ひとりのことを好きになりすぎた。
このグループを応援するのをやめることは出来ないだろう。
私は次のシングルを好きになれるのだろうか。
どうか、どうか好きな曲でありますように。
MVが公開された日、私は祈りながら再生ボタンを押した。
MV感想
結論から言うと、ちゃんとニアジョイでした。
まずMVがめちゃくちゃ解釈一致だった。
センターは前作に引き続き江角怜音(えすみ れのん)ちゃん。
彼女はかっこよさと可愛さを併せ持つスーパーアイドルだが、彼女の本分はそのカッコよさだろう。
個人的には、そのカッコ良いイメージから1番恋愛ソングを歌っている姿が想像できないメンバーだった。
もし彼女がセンターなら、先輩グループであるイコラブの曲『届いてLOVE YOU♡』みたいな感じでメンバーに爆モテしている怜音ちゃんしか想像がつかない。
=LOVE(イコールラブ) 『届いてLOVE YOU♡』
……などと思っていたら『初恋シンデレラ』で本当にメンバー全員から爆モテしていた。
サムネから漂うイケメンオーラ。
わかる。怜音ちゃんは女子校の王子様だよね。
それも自分のモテを自覚していないタイプの。
前々から怜音ちゃんにはなんというか、お顔とパフォーマンスがとっても好みなんだけど、
それ以上に「このままだと恋に落ちてしまう……」という並々ならぬ感情を抱いておりまして。
あのね、ショートカットで男装が似合う美人を嫌いな人なんていないのよ。
そんで、見た目クールなのにパフォーマンスしてるときにめちゃくちゃ笑顔で楽しそうで、普段は気さくでファン思いなのはずるいと思う。
ニアジョイのコンサートでは女性エリアがあるのだが、そこでライブを見ていると怜音ちゃんにだけ周囲から黄色い歓声が飛ぶのでめちゃくちゃ面白い。
でもその度、「きゃーってなる気持ちわかる~!」って思っている。
MVでは怜音ちゃんが他のメンバー全員から想いを寄せられるというストーリー展開なのだが、
歌詞の方は、「僕」が主人公で初恋の女の子への真っ直ぐな気持ちを歌っている。
私はMVを1回見た後、
この曲を初めて聞くのが、MVで良かったと思った。
初見では怜音ちゃんのイケメンさに目を奪われて歌詞に注目する暇がなかった。
MVは好きだけど、歌詞は何となくしか分からずストレートな感じでひねりがないなーと感じていた。
でも、2回目歌詞にも注目して聞いてみると
やっぱりこの曲もニアジョイっぽいなと感じたのである。
どこにニアジョイらしさを感じるのだろうと考えてみると
この曲の主人公も今までの曲の歌詞の視点となる人物と共通点があり、一続きなのではと感じさせる部分があることに気づいた。
共通するのは、自分の力ではどうしようもない世の中の理不尽なところにちゃんと気づきつつも、それでも自分の理想を諦めないところだ。
曲中の主人公たち
まずは私がニアジョイの中で1番好きな曲、『笑って フラジール』を例にあげて説明したい。
一見ネガティブな歌詞だ。
この曲のMVはコロナ禍を題材にしているもので、自分の力が及ばないところでやれるはずだったことができなくなる様子が描かれている。
それそれ距離(ソーシャルディスタンス)を取るメンバーたちや、予定していたイベントが中止になり落ち込む映像が歌詞とリンクしていてより切ない。
だが歌詞はあとにこう続いていく。
夢見てられる環境は平等ではない、だからこそ限られたチャンスは絶対ものにする。
そんな強い意志が感じられる歌詞だと思う。
もう一曲、夢をテーマにした曲を例に挙げたい。
以下は『今日も君の夢をみたんだ』からの引用である。
主人公である「僕」は
自分が易々とできることが他人にとっては血のにじむような努力が必要であったり
反対に、自分にとっては努力してなんとかようやくできることが他人にとっては当たり前にできたりすることを知っている。
何かに取り組んで得られる結果というものは、本人の努力だけではなく、元々持っている素質に大きく左右されるものだ。
この曲は全体を通して、
たとえ困難があろうとも夢に向かって走るのをあきらめないという前向きな歌詞だ。
そのメッセージ自体はありふれたものであるが、
客観的な冷めた目線で夢が叶わない可能性を歌っていることで、
主人公の夢を追い求める決意がより厚みをもって感じられるような気がしてくる。
恋を延命するために
『初恋シンデレラ』の主人公の「僕」も初恋に対して真っ直ぐな理想を抱いている。
この曲の冒頭の歌詞がこれだ。
初めて好きなった人を守りたいと思い、何があっても一緒にいたい、一緒にいられるはずだと信じている。
大人になってからだと恥ずかしくて簡単には口にできないようなフレーズのオンパレードだ。
あまりに初恋らしい純粋さに少し面食らってしまう。
冒頭の歌詞の印象からただ「恋に恋する少年」にしか見えない「僕」だが、後の歌詞をつぶさに見ていくと少し印象が変わってくる。
『初恋シンデレラ』はタイトルの通り、歌詞にもシンデレラを想起させるワードが散りばめられている。
その中でも印象的なのが「魔法」というフレーズである。
この部分は少しわかりにくいのだけれど、
魔法にかかっているのは「君」に恋をしている「僕」ではなく
「君」の方なのだ。
個人的な解釈だがこれは「僕」の初恋で頭がお花畑になっている様子を
如実に表現している歌詞だと思う。
魔法というのは奇跡だ。
人間には理解できない力を持つ魔法使いが現れ、何も持たない普通の女の子をたちまち煌びやかなドレスに身を包んだプリンセスに変えてしまう。
舞踏会に参加できないはずだった彼女は、魔法のおかげで王子様に出会い、そして結ばれる。
まるで初めから、シンデレラと王子が結ばれることは決まっているみたいに奇跡が彼女を決められた運命まで導くのだ。
曲中の主人公である「僕」の目には
今までの人生で出会ったことのない
可愛くて特別な女の子(=プリンセス)が突如として現れ、
しかもそれが奇跡に裏打ちされた運命かのように感じられる。
なんの奇跡か魔法使いが現れてシンデレラに舞踏会に行けるように取り計らってくれたように、
「僕」にとって「君」との出会いは神様が用意してくれた運命のヒロインとの出会いなのである。
「魔法」というフレーズは2番のサビで再び登場する。
この部分でも魔法にかかっているのはやはり「君」の方である。
しかし、1番では「君」が魔法に「かかっている」のに対して
2番では「僕」が「君」に魔法を「かけている」と表現がやや異なる。
はじめ「僕」は魔法にかかっている「君」に恋するだけだったが
ここでは「僕」自身が自分の意志で「君」に魔法をかけている。
さて、僕がかけている「魔法」とはどんな魔法なのだろうか?
2番のAメロの歌詞から、魔法に関する表現以外にも曲と前半と後半では「君」と「僕」の関係性が異なっていることがわかる。
恋は成就し、2人は恋人という次のステージへ関係を進めていく。
恋が成就したその瞬間、恋の賞味期限へのカウントダウンは始まってしまう。
恋が始まった時に抱いていた
――まるで魔法にかけられたように、好きな人のおかげで世界が変わって見えるうっとりとした幸福――
は長くは続かない。
主人公の「僕」は、浮かれているようでいて、大人になって何があっても「君」と2人でい続けるためにはお互いの努力が必要なことがちゃんと分かっているのだ。
シンデレラの物語では、午前0時が過ぎたら魔法はとける。
プリンセスのようだと憧れていたクラスメイトは1人の普通の女の子となり、すべてが自分の思い通りには進んでくれない。
お互いすれ違いそうになる度、関係を手繰り寄せて異なる意見も受け入れ、譲歩して時には相手にムカついたりしながらときめきからは少し遠い愛を育む必要がある。
午前0時が過ぎ、「君」にもともとかかっていた魔法が解けてしまっても主人公は「君」のことを僕のプリンセスだと宣言している。
魔法にかかるということが、夢のようなうっとりとした気持ちで相手に恋焦がれることを言うのならば2人はこれからもお互いに魔法を掛け合っていくのではないだろうか。
恋の賞味期限を伸ばす方法は1つしかない。
相手に惚れ直すことだ。
君に初めにかかっていた魔法が解ける前に、相手にもう1度魔法をかければいい。
ここでいう魔法は相手の幸せを思って、自分を相手に合わせて作り替えていく努力をもってかけることができる。
少々、夢見がちかもしれないが
恋は続かないという事実を前にしても
それなら自分が恋を作り続けるという諦めの悪さがどこか今までの曲の主人公と似ているところがあると感じられたのである。
ザ・ワールド発動
私がMVで一番好きなシーンがある。
それは天野 香乃愛(あまの このあ)ちゃんが周りの時間が止まったように周りの生徒たちが静止している中、怜音ちゃんに向かって1人だけ廊下を進んでいきそっと怜音ちゃんの頬を撫でるシーンである。
天野香乃愛ちゃん
この部分を見て、恋に落ちるというのがどのような現象かということを、こんなに的確に映像にできるんだと感動した。
好きな人に見とれているその瞬間、
周囲の人や景色は全部ただの背景になり
好きな人のことしか目に入ってこない。
その感覚を香乃愛ちゃんが時間が止まった中、
ただ想いを寄せている怜音ちゃんだけを見て
廊下を1人進んでいくことで表現されていて見事だった。
静止している人の間を縫って、香乃愛ちゃんは進んでいくのだが
人を避けるときでもあくまで視線は怜音ちゃんに留まっていて、人を避けるという行為は意識の外で自動的にやっているに過ぎない。
そのまま怜音ちゃんに近づき、微笑みながらそっと頰を撫でる香乃愛ちゃんの表情がリアルでよかった。
天野 香乃愛ちゃんはステージ上で動いてるときと普通に喋っている時にすごく印象にギャップがあるメンバーだと私は思っている。
ステージ上にいる時は明るくて元気で可愛いイメージだが、普段喋っている時の彼女は知的でおしとやかな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
ステージ上のアクティブな「動」の印象とは対照的に、
私が彼女自身に抱いているのは
じっと頭の中で何かを深く考えているような「静」のイメージなのだ。
物事に対して冷静に判断を下すようなクールな雰囲気に強く惹かれて彼女を好きになったのだけれど、
そういった彼女の「静」の魅力は今まで取り上げられてこなかった気がする。
彼女のパフォーマンスを見ていると可愛さに全振りした曲にあてたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるのだが、
個人的にはもうちょっとシリアスだったりかっこいい曲での表現が増えると元々持っている大人びた雰囲気が生かせて最高なのになと思っていた。
だから、このMVでは香乃愛ちゃんの儚さみたいなところにスポットライトを当たっていて嬉しかった。
美しいものに心を奪われてしまってぼうっとしている様子が
まさしく魔法にかかっているような幸福なあの瞬間で、香乃愛ちゃんの雰囲気と相まって私の心に強い印象を残したシーンだった。
それ以外でもサビのメロディーが妙に耳に残る歌うのが少し難しそうなところや
ここぞと言う時に葵ちゃんと結香ちゃんのハモリがあったり
最後に珠里依ちゃんのフェイクがあったりと
今までの曲との共通点が多々あり、やっぱりニアジョイの曲だなーという印象があった。
テーマが夢から恋に変わっても、ニアジョイらしさは損なわれていなくて
「あーこの曲で良かったな」と思った。
私はMV公開前に不安に思っていたことなんてすっかり忘れて、次のツアーを楽しみにしている。