特許検索における要約を対象とした検索のコツ(/ABの使い方)
「知財系ライトニングトーク #20 拡張オンライン版 2023 春」の記事です。
特許検索をする際に、一部のキーワードについて、要約を対象に検索するときのコツを紹介します
時間のない方は、【結論】と、記事の最後の「3.まとめ」だけお読みください。
【結論】
・「/AB」が効果的なキーワード=課題の解決手段の主要な構成要件、技術の要点や特徴的な構成要件。
・検索漏れを前提に(別の検索式で検索漏れを防ぐ等の対応が前提)「/AB」が使えるキーワード=課題
【理由】
1.そもそも要約書って何?
日本の特許制度の場合、要約とは、発明の概要を平易な文章で簡潔に記載したものであり、一般の技術者が特許文献の調査の際に、その発明の要点を速やかにかつ的確に判断できるように記載したものです。
特許出願の願書には要約書を貼付しますが、要約書の目的は、明細書等の内容の迅速かつ的確な把握を可能とするためです(逐条解説 36条2項)。
要約書の記載は、特許発明の技術的範囲を定めるにあたって考慮されません(70条3項)。
2.要約書は、何を記載するのか?
日本、米国、PCTの要約書に記載する内容は次の通りです。
(1)日本
原則として、発明が解決しようとする課題とその解決手段を記載することになっています。
イ 原則として発明が解決しようとする課題、その解決手段等を平易かつ明瞭に記載する。この場合において、各記載事項の前には、「【課題】」、「【解決手段】」等の見出しを付す。
ロ 文字数は400字以内とし、簡潔に記載する。
ハ 要約の記載の内容を理解するため必要があるときは、選択図において使用した符号を使用する。
(特許庁「出願の手続き 第2章 第五節 要約書の作成方法」より引用)
(2)米国
技術的な開示の要点等の記載が要求されています。
日本や後述のPCTとは異なり、課題を記載する規定はなく、MPEP 608.01(b)の"E.Sample Abstracts"を見ると課題は書かれていません。
A 背景
要約の内容は、特許文書に精通しているいないにかかわらず、要約を見ただけで開示された技術の性質と要点、および発明が属する技術分野で新規なものを迅速に判断できるものでなければならない。
B 内容
・要約は特許の技術的な開示を簡潔に述べたものであり、その発明が属する技術分野で新規なものを含むべきである。
・要約は発明の利点や推測される応用について言及すべきではなく、発明を先行技術と比較すべきではない。
・特許が基本的なものである場合、その開示された技術全体が当該技術分野において新規な技術である可能性があり、要約はその開示された技術の全てに向けられるべきものである。
・特許が旧来の装置、プロセス、製品、または組成物の改良という性質のものである場合、抄録には改良の技術的開示を含める必要がある。
・次に該当する場合、要約には以下の事項を含めるべきである
(1) 機械または装置であれば、その組織と動作
(2) 物品であれば、その製造方法
(3) 化学化合物であれば、その同一性と用途
(4) 混合物であれば、その成分
(5) プロセスであれば、そのステップ。
・装置の機械的、設計的な詳細については、要旨に記載すべきではない。
(MPEP 608.01(b) Abstract of the Disclosure [R-07.2015]より引用)
また米国の場合は、クレーム解釈において要約の記載が参酌されることがあり得ます(37 CFR 1.72(b))。
このような理由から、日本の特許出願の要約書をそのまま翻訳して米国特許出願をする予定の場合、要約書をクレームの限定的な解釈の根拠となる記載を避け、要約書には最も上位のクレームで特定した事項のみを記載するようにしておくことが無難とされています(深見特許事務所編.「改訂増補 外国特許実務を考慮したクレームと明細書の作成」経済産業調査会.(2013)より引用)。
(3)PCT
技術分野、課題、課題の解決手段の要点及び発明の主な用途の記載が規定されています。
(a) 要約は、次の事項から成る。
(ⅰ) 明細書、請求の範囲及び図面に含まれている開示の概要。概要は、発明の属する技術分野を表示し、並びに技術的課題、発明による技術的課題の解決方法の要点及び発明の主な用途を明瞭に理解することができるように起草する。
(ⅱ) 該当する場合には、国際出願に記載されているすべての化学式のうち発明の特徴を最もよく表すもの
(b) 要約は、表現することができる限りにおいて簡潔なもの(英語の場合又は英語に翻訳した場合に五十語以上百五
十語以内であることが望ましい。)とする。
(c) 要約には、請求の範囲に記載されている発明の利点若しくは価値の主張又はその発明の思惑的な利用について記
載してはならない。
(d) 要約に記載されている主要な技術的特徴であつて国際出願の図面に示されているもののそれぞれには、括弧付きの
引用符号を付する。
(PCT規則8.1より引用)
PCT3条(3)において、要約は技術情報としてのみ用いるものとし、他の目的のため、特に求められている保護の範囲を解釈するために考慮に入れてはならないと規定されており、日本と同様に要約の記載は技術的範囲を定める際に考慮されません。
3.まとめ
以上の理由から、要約には開示された技術の主要な構成要件や要点について記載されます。
要約書への課題の記載については日本の特許制度やPCTでは規定があるものの、米国出願との関連で、日本国内で公開された公報においても記載されないことがあり得ます。
そのため、特許検索の検索式で「/AB」を使用するときは、主要な構成要件や発明の要点をキーワードとした場合は効果的な結果が得られることが予想されますが、課題をキーワードとした場合は検索漏れが生じる可能性があるため、本検索においては/ABを含む検索式以外に別の検索式を作成し、検索漏れ対策を行うことが望ましいと考えられます。
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