【言葉遊び空論07】擬算数歌

 擬算数歌 おそらく 「ぎさんすうか」 と読む

 放送作家・エッセイスト:織田正吉の 著作『ことば遊びコレクション』の中で 紹介されていた技法であるが これ以外の文献で この呼称が出現した痕跡は 見られない(もっとも技法自体も 他の文献で お目に掛った事はない)為 おそらく 著者独自に 命名したものと 思われる

 著者の その心意気を尊重し 本項では この名称を 踏襲する事とする

 擬算数歌なる技法 それは 「数式の語呂合わせ」である

 簡潔 あまりにも 簡潔この上ない

もう(帰宅)ルートの中でえす!

(『数学公式の語呂合わせ – 数式は楽しく覚えよう』より)



 いざ本題へ と行きたい所だが さてその前に 『語呂合わせ』 という 基本的技法について 簡単に触れておくのも 良いだろう

 その必要は無い 今すぐに 擬算数歌 本編の能書きへと 我 洒落込まんとす という予習済みの特進生は 次の◆まで 読み飛ばして 差支えない

 進む

 語呂合わせは ある文字や数字もしくは記号を 意味の通じる 別の言葉に 言い換える技法 とでも言えよう

 特に 数字の語呂合わせが 一般的なイメージとして 真っ先に 思い浮かぶであろう事は 想像に難くない

 4と9が 死と苦を暗示させる 日本特有の慣習に始まり 4649や114514などの俗語やスラング 無重力の日(6月16日)などの記念日 悩み無用(0120-783-640)などの電話番号 白紙(894年)に戻す遣唐使などの年号 と言ったように 枚挙の暇がない

 ヨサホイ節や 桃太郎侍の口上 などに見られる 数え歌の類は 一つ 二つ 三つ ...といったように 序数を各文頭に置き その文頭の数の呼び方に 当てた文字から 詞を綴ったものであるが この 数字の当て読みは まさしく 語呂合わせに 相当する

 当然 語呂合わせは 数字のみに 留まらない

 元素記号周期表の 水兵リーベ僕の船(H・He・Li・Be・B・C・N・O・F・Ne)を 一度は聴いた事は おありだろう

 この周期表の語呂合わせは お解りの通り 元素表記(Heなど)と元素名(水素など)を 混交させており 語呂合わせとしては 非常に珍しい 形式をとっている

 英語の語呂合わせ といったケースもあり 例えば 『He, who, me, you, its』 という 経済学者:和田垣謙三の エッセイの中には 
『Oh! Ketty meets, Netty meets care no here fish.』
「起きて見つ寝て見つ蚊帳のひろさかな」
 と言ったような 俳句などが 創作・紹介されているという
 (最後の fishのみ 語呂合わせではなく翻訳)

 モールス信号の 覚え方というモノを ご存じだろうか

 例えば 「-・・・」(ハ)を「ハーモニカ」 「・・-・・」(ト)を「特等席(トクトーセキ)」のように ・を一字 -を長音を付けた一字に 割り当てて 単語を当てる という手法があり これも いわば 語呂合わせの 範疇として 含まれ得るものである



 では本題の 擬算数歌へ ……と その前に 今一つ 触れておかなければ ならない事がある

 擬算数歌は 『数式の語呂合わせ』 はじめに筆者は 確かに そのように言いほざき宣い放った

 次の例を 見て欲しい

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 この計算式において 肝腎の 語呂合わせとなる部分は =の後(右辺)である (語呂合わせ読み:ハシビロコウじいいいいい...

 これと 同じ形式のものに 「992÷1375=0.72145454545...」という ものも 言い継がれている(読みは各自で察する事推奨)

 なるほど 確かに 数式である事は 間違いない

 では これを 擬算数歌として 取り扱うか否かと 聞かれると 筆者は 極めて否寄りの否 と言わざるを得ない

 これが 擬算数歌の 管轄として適合が疑わしい 最大の要因は 語呂合わせに掛かる部分が いわゆる 解の部分のみ という点である

 このタイプは 語呂合わせが成立する ある一種類の数を はじめに想定し 後付けで それが解として 得られる計算を 割り出せば 出来てしまう

 擬算数歌 と称するからには 数式全体に語呂合わせが織り込まれている事が 最も理想である と考えられる為 上記の式は 紹介こそしたものの 本項では 「計算式が単に"付加された" 数字の語呂合わせであり 擬算数歌ではない」 と断ずる



 それでは 擬算数歌と 称するに値する 「数式全体に語呂合わせが織り込まれた」ものとは?

 以下の式を ご覧頂こう

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 4×9の部分を「しく」 8×9の部分を「はっく」 両者併せて 「死苦八苦」とし それが 煩悩(108)に結びつく と見立てた式である

 この式では 数式の中で 使用されている 数字 全てに 語(意味)が付与され かつ 相互に関連性が 確認出来る為 擬算数歌と呼ぶには 非常に適した例の一つと 見做して 申し分ないだろう

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 「いやなやつ+いやなやつ=みなごろし
 というこのネタは あるテレビ番組や あるゲームの中でも 触れられた程に 有名なものである(関連:184+184+184+184+184+184=1104)

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 「見殺し+憎しみ+厭味+辛苦+死=虚しさ

 式全体の 数字が 語呂合わせと なっている というのは 擬算数歌の 最も基本的な形式であるが 擬算数歌は 更なる 語呂合わせの 奥義が 見せ場となっている

 語呂合わせは なにも 数字だけの 専売特許ではない

 擬算数歌の 本領は +-×÷などの演算記号や 分数の括線などの パーツをも 語呂合わせに利用する という点において 発揮される

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 86は「やろう(野郎)」 11は「いい」 ±は プラス(加)とマイナス(減)で あることから「加減」 そして246は「にしろ」 すなわち この式は
 「野郎いい加減にしろ
と読むことが出来る

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 2÷9は 9で2を割っていることから 「きゅう にをわる(急に終わる)」 ×481は 481を掛けるということで 「しんぱいかける」 そして これらを 一つにまとめた形にすると シチュエーションは 定かではないが
 「急に終わって心配かけた
と読むことが可能となる

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 42×は「しにかける(死にかける)」 23は「にいさん(兄さん)」 それが 分数の括線に基づいて 1000の上方 つまり「線上⇒せんじょう⇒戦場」にある ということで
 「戦場で死にかける兄さん
と読めるのは 敵兵を見るより 明らかである

 これらの三例は まさしく 計算に用いられる 記号やパーツを巻き込んで 語呂合わせする事で 数式を一つの文章として 成立させている

 数字のみを 語呂合わせさせた 計算式よりは ひょっとすれば これらの例の方が 擬算数歌と称して 新規にカテゴリを設定するに 充分 相応しさを増すだろう

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 前記の三例の 形式に対して 更に 「=」を加えて 応用化が 図られたケースもある

 これによって 擬算数歌の 奥行きは XYZ軸を ますます 伸長させて その次元が大いに 拡張される事となる

 その前に 以下を ご覧頂こう

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 上は 「6374 → 無残な死」「79.837 → 泣くわ皆
 下は 「968459 → 苦労は地獄」「984.103 → 悔しいおっさん
 という具合に 両辺の数字部分が ある程度の 繋がりを持つ 語呂合わせとして 成り立っている

 これらの形式に関しては 「√45450721=6741.7...」が とくに有名である(敢えて 読み方を記さない事とする)

 この形式でのミソは 平方根の値が 無理数である場合 語呂が通じる事の出来る位から 切り捨てる作業である

 さて これらは ”平方根とその値を書き表わしたモノ”である事が すぐに理解される事だろう 

 =以外の目立った記号は √(ルート)や.(小数点)のみで +やーなどの記号が 用いられてはいない

 ただし 数式を 「定められた値を表した文字列である」と 解釈するならば 数式として 差支えは無いと思われる

 とは言え 「どうせなら 演算記号も 織り成された式を...」 と 所望される人は 多いだろう

 そこで 冒頭で触れた 織田正吉の著作 『ことば遊びコレクション』内から 2つばかり 引用してみる (※著者が どこから これらの作品を 発掘したのかは 著作内でも 明らかにしておらず 不明である)

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 これは 都都逸(7775調のリズムで詠まれる定型詩)であり 「五分と五分とでしかけた上は引くに引かれぬ身の事情」 と読むそうだ

 0-1を「引くに引かれぬ」 そして ²を二乗から「事情」を 読ませるのは なかなかに 粋なものである

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 もう一つ このような 都都逸も 紹介されているが 著者によれば 分母33-89が未解読であり 分子以降 残りは 「話に身が入る四畳半」と 読むらしい

 分母33-89で 都都逸の前半77に 語呂をはめ込め 解読が成功したという つわものが いたならば 是非とも 連絡を頂きたい

 さて この2例 察しの良い人なら とっくに 気付いていることと 思われるが =で 連結されているとはいえ この式は 計算が成立しない

 ところが 当著作内には 計算式が 完全に成立しているケースでの 擬算数歌が 結局 紹介されずじまいと なっている

 そうなると どうしても 計算式として 成立しているものを 創りたい という意欲を 湧かせるのが 好奇心という 魔物の戯れであろう


 以下 自作


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要求を十分満たせばご自由に

 490 → 「要求を」
 /10 → 10 分 → 「十分」
 +3 → 3 足せば → 「満たせば」
 52 → ごじゅうに → 「ご自由に」

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人の人情かけても寂しさ 和みが去ってく世の無情

 1²× → 1の2乗 掛ける → 「人の人情かける」
 3343 → 「寂しさ」
 753ー → 「和み」
 -4⁶ → 去る(無くなる意味で) 4の6乗 → 「去ってく世の無情」

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苦労を掛けた身の上話 心を惹いて泣きついた
 いろんな事情が 後引く昨夜

 96× → 「苦労 掛ける」
 874/3 → 3の上 874 → 「身の上話」
 ー556 → 「心をひく(惹く)」 
 +79 → 79つく → 「泣きつく」
 167² → 167 2乗 → いろんな事情
 -398 → 引く 398 → 「後引く昨夜」

 創作後 知らず識らずのうちに 行なっていた事であるが 結果として 計算が完璧に成立している という点では 条件を満たすことが出来た と言えるが 肝腎の「=」に 語呂合わせを仕掛ける という点では 不完全であると 評されてしまうかもしれない

 先の都都逸の例と 同様に =を 別文の転換や一区切り として 表している 節がある

 これを どう判断するかは 今後に 委ねよう

 更なる意欲へと 駆り出されんとする 猛者が もし いるのであれば =をも語呂合わせに 活用した いわば 真の完璧な擬算数歌を 創り上げて頂きたい

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