【言葉遊び空論17】頭字語
近年 『VR』の 存在感が 台頭を極める
VRとは 「仮想現実」を意味する 英表記「Virtual Reality」の 各単語の頭文字を 抜き出した 略語だ
存在しない事に対して 存在感と言い回すのも 些か 矛盾を醸すが まぁいいだろう
仏教において 全ては仮説である と打ち立てた 空思想に始まり 生物学において「環世界」(ユクスキュル) 歴史学において「虚構」(ハラリ) 精神分析学において「共同幻想」(岸田秀) などと それぞれの分野が VR概念を補強し それは 「確率」(量子論) 「言語ゲーム」(ヴィトゲンシュタイン) 「関係・あいだ」(木村敏)で決まる という 機能構造も 鮮明化していく事となったが これらの話題は 本稿の趣旨ではないので 今更ながら この一段落は 読まずとも結構
さて 先のVRと同様 AI CR WHO GNP USB CIA ADHD TOEIC UNESCO など こうしたは略語は 今や 常世に溢れ返り 俗語に留まらず 公的・専門的な用語・術語としても 重要な役割を担っている
このような 短文 あるいは 二語以上の単語で 構成される対象物において 各単語の頭文字を 一部もしくは全て 抜き出し 表記される略語を 頭字語と呼ぶ
特に アルファベット表記のモノを指し 殆どは 大文字表記される
(「LASER」 Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)
◆
頭字語において 構成する単語から 文字が抽出される パターンには 種類がある
以下に それらを 大きく分けて 確認しておこう
1⃣全抽出パターン
構成する単語の頭文字 全てを抽出したパターン
頭字語の 極めて オーソドックスな型といえる
ソーシャル・ネットワーキング・サービス
「SNS」 Social Networking Service
総合適正評価
「SPI」 Synthetic Personality Inventory
生活の質
「QOL」 Quality Of Life
なんてこった
「WTF」 What The Fuck
...etc
2⃣部分抽出パターン
構成する単語の一部を除き 他の頭文字を抽出するパターン
頭字語では a the などの冠詞や of for or and などの前置詞・接続詞が 無化され 抽出から省かれるケースが 非常に多い
また 冠詞や前置詞でなくとも 抽出されない単語を有する 頭字語も存在している
アメリカ合衆国
「USA」 United States of America
石油輸出機構
「OPEC」 Organization of the Petroleum Exporting Countries
ニート
「NEET」 Not in Education, Employment or Training
農業協同組合
「JA」 Japan Agricultural Cooperatives
...etc
因みに UFOを 「ユー・エフ・オー」のように アルファベット表記 そのままで読むモノを イニシャリズム と呼び 「ユーフォー」のように 頭字語表記自体を 一つの単語のようにして読むモノを アクロニム と呼ぶ
3⃣頭文字二字抽出パターン
頭文字を抽出する際に 一部単語から 頭文字二字を 奮発して抽出しているパターン
数は 史上 半トン(500kg)の体重を越えた 人間の如く 非常に少ない
日本貿易振興機構
「JETRO」 Japan External Trade Organization
...etc
4⃣語中抽出パターン
単語の 頭文字ではない部分から 抽出される 奇を衒ったパターン
当パターンの特徴としては ある単語の頭文字と その単語の中から もう一字を 拝借しているモノが 殆どである
アドベンチャーゲーム
「AVG」 Adventuer Game
背景音楽
「BGM」 Background Music
幻覚剤LSD
「LSD」 Lysergic acid Diethylamide
..etc
また 以下の
ケーブルテレビ
「CATV」 Cable Television
東証株価指数
「TOPIX」 Tokyo stock Price Index
のように 頭文字二字抽出パターンとの複合や
宇宙航空研究開発機構
「JAXA」 Japan Aerospace Exploration Agency
のような もはや 頭文字以外から抽出している 異端児ケースも 見受けられる
(「FX」 Foreign Exchange)
0⃣一単語抽出パターン
おまけとして
一つの単語だけから 文字を抽出したパターンで 語中抽出パターンの 極限であると言える
簡単に言えば misterを「Mr」 doctorを「Dr」 identificationを「ID」などといった 表記に通ずる
単語一語のみである為 もはや 頭字語と括るに 値するのか 疑念は残るが 参考までに 目をつぶる事とする
ダウンロード
「DL」 Download
紫外線
「UV」 Ultraviolet
会議
「MTG」 Meeting
...etc
◆
以上 記したのは 頭字語と成す為の 抽出過程の分類である
しかし 頭字語を構成する 種々の単語の設置が 如何なる様相を 成しているかは また それ以前の アングルである
それらも 分類しておいて 幾許も損はないだろう
1⃣名称系
対象物が何であるかを 指し示す単語で構成され いわば名称として 扱われる
声優
「CV」 Character Voice(性格・キャラクター 声)
知能指数
「IQ」 Intelligence Quotient(知能 指数・比率)
特殊奇襲部隊
「SAT」 Special Assault Team(特別 急襲・突撃 チーム)
エイズ
「AIDS」 Acquired Immunodeficiency Syndrome
(後天性 免疫不全・症候群)
...etc
2⃣文章系
名称としてではなく 一文・一節が基となっているモノで 現代では英表記のスラングとしても 増殖の一途を辿っている
かく示された・証明終了
「Q.E.D.」 Quod Erat Demonstrandum(※ラテン語)
安らかに眠れ
「RIP」 Rest in peace.(元々はラテン語のrequiescat in paceから)
なんてこった
「OMG」 Oh My God!
...etc
3⃣羅列系
名称や文章とは違い ある関連の下に 寄せ集められた 単語の羅列から 構成されている
計画・実行・評価・改善
「PDCA」 Plan Do Check Act
注意・興味・欲望・記憶・行動
「AIDMA」 Attention Interest Desire Memory Action
レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー
「LGBT」 Lesbian Gay Bisexual and Transgender
時間・場所・場合
「TPO」 Time Place Occasion
...etc
この羅列系は それらの単語の頭文字が 同一である場合 ひとまとめで 表記される場合がある
「4E」 Education Examination Experience Ethics
(教育・試験・経験・倫理)
「5R」 Refuse Reduce Reuse Repair Recycle
(断る・減らす・再利用・修復・リサイクル)
...etc
因みに
「Roy G. Biv」は 虹の7色(Red Orange Yellow Green Blue Indigo Violet)を 表す頭字語であるが それを更に 人名に見立てた 仕上がりとなっており 匠の技巧が 凝らされた一作だ
(「MMD」 Miku Miku Dance)
◆
頭字語は 基本的に アルファベット表記である為 その多くは 英語に 依拠している
だが 日本語においても ローマ字 という強力な役者風情の 活躍によって 頭字語が 問題なく 成立する事となった
日本放送協会「NHK」(Nippon Housou Kyoukai)は その代表的例であろう(日本国内の放送局は ほぼ 日本語由来の頭字語となっている)
近年 頻繁に その存在感を あらわにした 「KY」(空気読めない「Kuki Yomenai」)は まさに その筆頭であると 言える
この為 英語ではなく ローマ字表記の日本語を 由来とする頭字語を KY語 あるいは KY式日本語 と呼ぶ例もある(北原保雄など)
(現在 「JK」は 女子高生「Joshi Kousei」の意が 主流らしい)
ところが
近年において 日本の頭字語に 極めて 変則な型が 現れた
「wktk」「gkbr」「kwsk」といった スラングを ご存じか
リアルタイムで 使用していた という賢人も おられるかもしれない
かつて 2ch等で 使用された これらの用語は 順に 「ワクテカ(期待を表す擬音)」「ガクブル(恐怖を表す擬音)」「クワシク(詳細求むの意)」である
これらは ほぼ 死語となったが 中には 「ktkr」(キタコレ:期待した事・嬉しい事が起こった際の気分を表す)が とある ソーシャルゲーム内の キャラクターのセリフとして 利用され かろうじて 残っている というケースもある
また 「ggrks」という表記も よく見られた
「ググレカス」と読み 咀嚼して言えば 「自分で調べろバカタレが」 の意である (ググレは googleの動詞化であり google検索を意味し カスは まま蔑称)
さて これらの表記は ここまで見てきた 頭字語とは 微々たるも 性質を 異にしている
既に お解りであろう
かな一字を アルファベット一字に 置き換えているだけなのだ
「ktkr」は 即ち「ki ta ko re」という 4拍それぞれの文字の ローマ字表記から 前者に位置する一文字(ここでは子音)を 抽出している
これらは 字数の縮小を意図せず 表記の簡素化を 目指したモノであり 厳密にいえば もはや 略語とは 言えない
日本の頭字語は コンパクト化 と言うよりも スリム化 とでも言える 奇妙な変化を遂げたと 言えるだろう(以下 このような表記を 仮称で ktkr書きと 呼ぶ事とする)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm13602848
◆
ktkr書きの表記は 日常的なスラングよりかは とある界隈で 爆発的に 主演を 勝ち取っている
舞台は ニコニコ動画
一大ジャンル「真夏の夜の淫夢」では その登場キャラクター 及び それに関わった・巻き添えを食った 人物や作品の登場キャラの 大部分が ktkr書きで 表されている(当該界隈では TDN式表記などと 呼ばれる事もある)
また それまでのスラングでは 見られなかった 特色も出現し得た
このジャンルの横行により 子音を持つ文字は まま子音を使用すれば 良いだけだが アイウエオの母音や ンが 使われている場合 そのまま 母音 AIUEO 及び Nで 表記される事が 通例となったのである
ミウラ → MUR キムラ → KMR タニオカ → TNOK
アキヨシ → AKYS ノリカ → NRK クボタイト → KBTIT
宇月幸成(うづき) → UDK姉貴 れう → RU姉貴
緋翠(ひすい) → HSI姉貴 さななな → SNNN姉貴
伊吹萃香(すいか) → SIK アリス → ALS
...etc
(「NKTIDKSG」 ネクタイデカスギ)
注目すべきは 東方Projectの キャラクター:大妖精(通称であって個別キャラ名は無い)
その呼称から「DIYUSI(ダイヨウセイ)」 という表記をされたが 都合良く 子音と母音が 交互に織り成した事で 通常のローマ字のように 見える事から 「ぢゆし」という 呼称が誕生した
ktkr書きに限らず 日本における頭字語の アクロニム(前述:頭字語それ自体を一つの単語として読む方式)は あまりにも珍しく 稀少な存在と言えるだろう
ktkr書きは 言葉それ自体が 略されている 訳ではない為 そのアルファベット一字ごとに かなを割り当てれば 理屈としては 読める構造となっている
だが 考えても見るべし
子音表記の字には 一部を除けば 3字ないし5・6字の候補が 選択肢として 立ちはだかる事となる(K→カキクケコ N→ナニヌネノン Y→ヤユヨなど)
人が ktkr書きの表記と 初めて 対峙するシーンというのは これは明らかに 読み違いが 発生しても 決して おかしくはない 緊迫した状況設定なのである
そして まさに その”読み違い”が しかも 広く 通用してしまった 例が実際にある
ニコニコ動画における 歌い手:朝月(アサツキ)は ある切欠から 例の如く 「ASTK姉貴」と ktkr書きの 洗礼を一方的に受けた
しかし それが (意図してか 偶然であったか 定かではないが) 「ASTK → アステカ」と 誤読されたのだ
これにより 朝月が とある事情で関与した キャラクターが アステカ文明 もしくは古代文明を イメージ・モチーフとしたデザインに 二次創作されるという 珍妙な事態に 発展していく事と 相成った
なお 一連の経緯の詳細は ニコニコ大百科「ASTK姉貴」項を ご参照
◆
頭字語は 「対象となる 事物の名称や短文を 略記したモノ」である
この事は 冒頭から 述べてきた
しかし実を言えば この定義は ある点において 不足している
それは 「頭字語と 元の表記が 一致しているとは 限らない」という事である
唐突に どういう訳だ と 眉間に皺を寄せる 随意運動を 生起させた心境 どうか抑えて頂きたい
例えば 「GHQ」と 聞くと 何を思い浮かべるだろうか
日本人的教養を お持ちであれば ♪夕焼け空がマッカーサー(夕焼けとんび替歌) の如く 敗戦後 日本において占領政策をしいた 「連合国軍総司令部」を 想起させるのは 容易いだろう
ところが 待った!
GHQとは 「General Headquarters」の略であり この言葉そのものには 「総司令部」という訳しか 備わっておらず 「連合国軍」は 全く含まれていない
本来は あらゆる場面での 総司令部を 指すはずの言葉が 強烈な歴史的事象の為に 特定の「連合国軍総司令部」のみを 指す頭字語と なったと言える
先に筆者が 言った事の意味 理解して頂けただろう
何もこれは 特殊な例ではない
核兵器禁止条約「NWC」においても その正式表記である 「Nuclear Weapon Convention」には 最優先に 強調されるべき ”禁止”にあたる語が 含まれていないのだ
更に最も 象徴的な例は 「DIY」
DIYは 「Do it yourself」(自分でやってみよう)の頭字語であり 元々は 戦後 ロンドンで広まった 復興運動の スローガンであったのが アメリカに渡った この概念は レジャー・余暇として 変質を遂げ 日本においては 言うなれば 「ものづくり・日曜大工」を 意味する語となった
特定の事柄を 指し示すはずが その意味や意図が 変化・付加していくという 言語元来の 成り行きには 逆らえないのだ
また 次のような 例もある
「SFC」と見れば 誰しも 「スーパーファミコン」の 頭字語である事は 音速を越える 神経回路の早さで 察するであろう
スーパーファミコンは 普通 「スーファミ」と略称されるが よぉく考えると 奇妙奇天烈
ファミコンは そもそも 「Family Computer(ファミリーコンピュータ)」の 略称である
その次世代機が スーパー(super)を冠して 登場した訳なのだが 「スーファミ」の略称では 肝心かなめである 「computer」が 消失して しまっているのだ
スーファミでは 単なる(というのも変だが)「超家族」である
いやいや 「スーファミ」の「ファミ」は 「Family」ではなく もはや 固有名詞化(合成語化)した 「Famicom」からの 抽出なのだから 既に 「Computer」の意は 含まれているはずだ
なるほど 妥当な見解に グウの音も出ない
では 次は どうだろう
未確認動物を意味する「UMA」は 「Unidentified Mysterious Animal」という和製英語の 頭字語である
おおよそは ネッシー ビッグフット ツチノコなどを 連想するであろうが 実のところ 未確認とはいえども どのような動物を UMAとして 扱うかという問題は 現在においても 個々の研究者によって その範囲が 統一されてはいない(河童を UMAにも含めるか 妖怪に留めるか という違いなどがある)
UMA研究家:中沢健は その一因として 「UMA」の「M」 即ち 「Mysterious(神秘的・不思議な)」の部分が 未確認動物という名称からでは 半ば 隠蔽される形に なっているからではないか と説く
これは 先の ファミコンとは違い 明らかに 概念の消失が 働いてしまっている
このように 当初に想定し 含まれていた概念が 欠落してしまった 頭字語の例と 言える事態は 未確認動物に比しても 明確に 確実に 存在しているのである
このような例は 通常の略語にある 「シンクロ」「フィギュア」「スーパー」「ケータイ」「エレキ」「原付」などから それぞれ メインとなるモノが 省かれてしまった 奇妙な現象に さも似たりと 言ったところだろう (それぞれ 「スイミング」「スケート」「マーケット」「電話」「ギター」「自動車」という主体が欠落されている)
ちょっと変則的だが、サッカーというのも略語だ。足でボールを蹴るスポーツは色々あるが、協会がルールを定めたものを association football という。「協会フットボール」だ。この association の略語 assoc に(~する人)という -er をつけて、assoccer。さらに略されて soccer(サッカー)ということらしい。主体であるフットボールが欠落した略語なのだ。
(藤井青銅『略語天国』より)
言葉は生き物
頭字語も それが 流通し続ければ 一つの言葉であり 言葉は 時代や環境などにより その意味・価値を 変容させていくのが 常である
頭字語も 言語ゲームの枠から 逃れる事は 出来ないのだ
いずれ 頭字語は 「~転じて~の意」というような 熟語化・成句化を 遂げて いくのかもしれない
57 名前: 水先案名無い人:2009/10/26(月) 02:54:58 ID:lfay4kZw0
友達にどのプロバイダー使ってるか聞いたらさ、「教えぬ!」って言うわけよ。
ちょっとカチンと来たけど我慢してもう一度聞いたら、「だから教えぬ!」だってさ。
あんなに頑固な奴だとは思わなかったぜ
◆
さて
頭字語は 頭文字の抽出を その本質としていた
そこで よぎる考え
北シナプス駅を 通過する 急行ニューロン線 が一本
構成される 各単語の 末字を 抽出した略語 の問題である
強いて言うなれば 脚字語 もしくは 尻字語 とでも 称せられよう(以下 「脚字語」と仮称する)
いくら何でも それは 有り得ないのではないか とお思いのご一統も 多いと 思われるが 「単語の後半を抽出する」という 点については 広く略語に まぎれもなく 流通している
そもそも思い出して欲しい
「ネット」こそ 「インターネット」の 略語ではないか!
サテン = 喫茶店(キッサテン)
バイト = アルバイト
ブログ = Web long(ウェブログ)
リーマン = サラリーマン
ガイシャ = 被害者(ヒガイシャ)
...etc
(2ch発祥キャラ「モナー」の名は 「オマエモナー」に由来する)
近年において YouTubeを ローマ字読みの「ようつべ」から派生し 「つべ」と 呼ぶ例も 見られるが これも 充分に その要件を 満たしている
余談だが これら 「言葉の後半部を抜き出した」略語の例を 放送作家:藤井青銅は オフビート略語と 名付けている
そして 前述した 「構成される各語の末字を抽出」する 脚字語の例は 思いもよらない程に 身近な所にある
JR京葉線 奥羽山脈 芸予諸島
これら それぞれ 「京葉」「奥羽」「芸予」は 「東京・千葉」「陸奥・出羽(両旧国名)」「安芸・伊予(両旧国名)」の 略語であり 後半の文字 いわゆる 末字から抽出されている
このような例は 市町村合併において 増産された 合成地名 によって 跳梁跋扈する事となった
熊本県上益城郡山都町「須原」 高須村 + 西原村
神奈川県川崎市多摩区「生田」 上菅生村 + 五反田村
兵庫県「美方郡」 七美郡 + 二方郡
福島県耶麻郡西会津町「尾野本」 松尾村 + 森野村 + 茅本村
埼玉県南埼玉郡「宮代町」 姫宮神社 + 身代神社
(浅井建爾『日本全国合成地名の事典』より)
因みに 合成地名は 通常の 頭字語方式によって 命名された地名も 当然ながら 見られる
京都府綾部市「故屋岡町」
古和木村(こ) + 八代村(や) + 小中村(お) + 川原村(か)
佐賀県「三養基郡」
三根郡 + 養父郡 + 基肄郡
東京都「中野区」
中野町 + 野方町
(同掲)
※「中野区」のように 頭字語の表記が 本来 抽出したはずの 構成単語と 同一になる例は 再帰性頭字語と 呼ばれる
例:「VISA」 VisaInternational Service Association
では 合成地名以外に いわゆる 脚字語となる 言葉があるのか?
ある!
「団地」だ
団地は 「集団住宅地」の略であり 集団+住宅地の 二語であると考えた場合 これは 間違いなく 脚字語と言える
考えてみると 実に不思議な 略し方ではある
だが 「集住(頭抜き出し型:しゅうじゅう)」「団住(中抜き出し型:だんじゅう)」といった よく成されるタイプの略式の 読み方と比較して 「だんち」という 語呂の良さを 取った可能性は 充分に有り得るだろう
しかし 残念ながら 筆者は 脚字語の実例として この「団地」しか 確認する事が 出来なかった
求む 脚字語
◆
頭字語は 基になる 文章もしくは名称など まず言葉があり それを構成する数語の単語の 頭文字を 抽出した略語である
この事は とっくに 腑に落ちているであろう
注目すべきは 「まず言葉(構成する単語の集まり)あり」 という事だ
ところが これを逆手に取ってか 頭字語あるいは頭字語以外の語から 構成単語を 疑似還元するという現象が 発生した
代表的な例では 遭難信号「SOS」
今では 遭難に限らず 助けを要する 幅広い範囲で 用いられる 「SOS」は モールス符号の S(・・・)と O(---)が 打ちやすい という理由で 使われ始めた表示であって 略語ではない
ところが 「SOSは save our shipの略」といったような 俗説が どこからともなく 噴出してきたのである
確かに SOS その表記自体 何らかの略称で あるようには 見える
その 薄っすらと抱いた 人間の心理が 誤作動を 繰り出し ありもしなかった語源が 創作される
こうした 頭字語と想定した表記から これを構成しているであろう 単語を仮定した表現法を バクロニム と呼ぶ
簡潔に言えば アクロスティック・折句・あいうえお作文 と同種である
「news」も 「North East West South(北東西南)の略」と 称されるのは 非常によく出来た話ではあるが 語呂を合わせる為の 方便に過ぎず 誤りであると されている
だが それらをして 嘘っぱちだの ガセだの 間欠泉のごとき 非難を 浴びせる 必要はない
それらは 大喜利における ”正解(極めて適切な回答)”を 勝ち取った モノであると考えれば 実に ユーモアに富んだ 「作品」なのである
むしろ 頭字語は この バクロニムによって 言葉遊びの領域へ 一層 歩み寄る事が 出来たとも言える
忍者、すなわち「NINJA」は、Nimble(素早くて)Invisible(姿を見せない)Nightly(夜ごと働く)Japanese(日本の)Agent(秘密情報員)の略。外国人に会ったら教えてあげよう。
(毛内浩靖『カンニンGOOD!』より)
元々 こうした既存の語を 何らかの略語と見立てる 遊戯は 以前から 散見されていた
「ソバ」 相当バカ
「拒否権」 巨乳は悲惨な懸垂運動
「挟む」 早起きは三文じゃ無理
「いかだ」 いいからだまれ
「PTA」 パットたくさん入れたのにAカップ
(三宅裕司『三宅裕司の略語研究会』より 頭字語的なモノを抜粋)
もっともらしい 単語のこじつけは 遊戯性を強調させ やがて着々と ジョーク・皮肉といった 諧謔性を 身にまとうようになる
言葉遊びにおける 遊戯体→機知体→諧謔体 という生態の進化体系を 非常に解りやすい形で 頭字語は 表している
その行く末は 陰謀体 であるのだが 果たして 頭字語の運命やいかに
【Ford】
Fix Or Repair Daily(毎日修理か調整)
Found On Road Dead(行き止まりで見つかる)
【FIAT】
Found In ATrashcan (ゴミ箱で見つかる)
Fix It Another Time (今度修理しろ)
【HYUNDAI】
Hope You Understand: Nothing’s Drivable And Inexpensive
(「安くて運転できるものなんてない」とご理解頂けることを)
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