夏、ミスチル
確か、小学校3年生くらいの頃だ。
同じ野球部の一つ下に仲良くしていた後輩がいた。
彼は両親が離別していて夏休みなどの長期休暇の時には、僕の家の近くにあった彼の父の家によく遊びにきていた。
毎朝ラジオ体操終わりに、玄関の鍵が開けっぱなしの家に僕が目覚ましがわりに起こしに行くのが日課だった。
彼とはもちろん仲が良かったが、彼の父親とも仲が良かった。
僕らはよく3人で出かけた。海に釣りに行ったり、映画を観に行ったり、アイスクリームを食べに行ったこともあった。
楽しかった、他所から見れば少し辺な3人組だったが、僕はそれが心地よかった。
目的地に向かう彼の父親の車の中では、いつも決まってMr.Childrenが流れていた。
その時に聞いたSignに僕は衝撃を受け、それから15年の月日が経った今もMr.Childrenが大好きなままだ。
月日は流れ僕は大学生になった。後輩とも疎遠になり、当然その父親とも連絡を取らなくなった。
そんな父親から、就職活動を控えた今年の2月に1通のメールが届いた。
「健太、元気ですか?おっさんはもうあかんかも知れん。」
一瞬なんのことかよくわからなかった。
詳しく事情を聞くと、大きめの病に侵されていた。毎日苦しい投薬に耐え、意識が朦朧とする中での生活。死を覚悟していたらしい。
「Mr.Children聴いてみたら?ちょっとは元気出るんちゃうん。」
「そうやな、ありがとう。聴いてみるわ。こっち帰ってきたら言えよ、おっさんとこ来てくれ。」
そう言って連絡は途絶えた。
僕自身も就職活動が忙しくそれどころではなかった為、中々連絡を取ることができなかった。
就職活動が落ち着いた6月、本当の意味での「生存確認」を行った。
「生きとるわ。」と一言返ってきた。
安心した。
「ほんまにミスチルのおかげで救われたんじょ、嘘ちゃうけんな、ミスチルにも感謝しとるけど、お前にも感謝しとる。ありがとう。」
どうやら生死を彷徨う中で、Mr.Childrenの終わりなき旅を繰り返し聴き、遠ざかる意識をなんとか食い止めていたらしい。
偶然にも就職活動中心が折れないよう、僕もよくこの曲を聴いていた。音楽って不思議な力を持っているなとその時改めて思ったのと同時に、あの頃の懐かしくもあり、悲しいようななんとも言えない甘酸っぱい夏の香りが鼻をかすめた。
「いつ死ぬかわからんけん、思い出作り付き合ってくれや。」
「いいで、どこでも着いていくし。」
「ほうか、お金はおっさんに任せ、残して死んでもしゃーないけん。」
僕は来月、彼と北海道に行く。
あの時とは違った夏を、彼を、どう言うふうに受け止めたらいいのかまだ正直わからない。
人との縁は本当に不思議だなとつくづく、また一つ大切な思い出の引き出しができそうだ。
(続く)
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