見出し画像

消えそうな夏の消えそうな記憶

数年前、共通の趣味をきっかけに仲良くなったとある友人がいた。その友人とは聞いている音楽や、タイプの映画などが同じで意気投合。サブカルについて語り合える友人が少なかったのもあり、その話題についてドンピシャで語り合える友人ができた事に嬉しさを感じていた。その為、割と毎日遅くまで話をしていた。と思う。

友人と話している時間は何故か心が休まっていた。返事するのをめんどくさいと思うこともなかった。これは僕にとって珍しい事だ。僕と連絡を取ったことのある人ならわかると思うのだが、僕はとにかく返信するのが遅い。待ち合わせの予定を決める時でさえ遅い時がある。つい先日も大学の教授への返信が遅れ、「他人の時間を奪っているという自覚を持ちなさい。」と久々にしっかり説教をくらったばかりだ。そんな自分のダメな部分を隠そうとしなくてもいい存在であった友人にどこか安心感のようなものを感じていたのかもしれない。

ある年の夏、友人と、とある観光地へ遊びに行った時の話だ。真夏のクソ暑い日に何故か長袖のシャツを選択した僕を友人は少し馬鹿にしたように笑った。それから何を話したかはよく覚えていないが、友人が言っていた一言を思い出す。「なんか噂だけど、ここに誰かと一緒に来ると、その縁が切れるらしいんだよね。」それを聞いた僕は、そんなわけが無いだろうと思い、適当に返事をしたと思う。もう覚えていない。

音楽を聴いていると、ふと誰かを想い出す事はないだろうか。昔好きだった人や、高校の恩師、両親など思い出す対象は人によって様々だと思う。僕にとっては、友人もその対象の1人で、勧められたとあるインディーズバンドの柔らかな雰囲気の音楽がシャッフル再生のイヤホンから流れる度、私は友人のことを思い出していた。「あの監督が最新作を出すらしいよ!」とか「今読んでるこの小説が良くてさー!」とか言わなくてもいい事を音楽を聴くたびに思い出して、音楽が終わる頃には忘れたりしていた。

この前、そのメジャーバンドがついにメジャーデビューを果たした。普通ならその事について、熱く語り合うはずだった友人とは、もうすっかり疎遠になっていた。あの時、友人が言った、「縁が切れるらしいんだやね。」という一言がデビュー曲を歌うイヤホン内のボーカルの声よりより大きな音量で脳内で再生されていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?