ヘブン
狭いトレーラーハウスのベッドに横たわるスティーブと私
日本から
スーツケースと共に詰め込んだ
面倒くさいヒロイン症候群
それが私の中で暴発する
顔を隠して恥ずかしい恥ずかしいと
連呼するばかり
Don’t be shy
恥ずかしがらないで
恥じらい、という概念のない文化のリングの上で
意味不明の抵抗を続けた私
私はアンディが好きなはずなのに
なんでこんな悪そうな男の子とベッドの上にいるのか
なんて、色々色々ハリセンで殴りたくなるくらいの自意識過剰な葛藤を続けていた
アンディが好きなの
だからこういう事はできない
と拙い英語で私が伝える
Shhh!
シーっ
アンディって誰?
そんなの関係ないよ
楽しもうよ
スティーブが顔を覆っている私の手をそっとどけ
彼の柔らかい唇をゆっくり
優しく
自分に重ねてきた
女の記憶はいつだって自由自在に塗り替えられる
19で初めて日本人の彼氏っぽいのとそれはした事はあるけれど
気持ち悪くて吐き気がした最悪な思い出
あの記憶は一瞬にして記憶の彼方に消去され
このカーリーヘアの
彫刻スティーブ・キャスラーとのそれが
私の人生のファーストキスとなった
永久とも思える優しくて長くて柔らかいキス
私は生きたまま天国へ上昇していた
死んだかと思うほどの楽園だった