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さよなら、闇堕ち お雛さま
実家で四半世紀以上しまいっぱなしになっていたお雛様を引き取り、毎年飾っています。今の住宅事情では貴重となった七段飾り、でも飾るたびにちょっと複雑な思いになる。それでは聴いてください、「お雛様の闇堕ち」。
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実家じまいで七段飾りのお雛様を引き取り、毎年飾るようになった。
お雛様を見に女友だちがやってきて大人のお雛祭りを催すなど、「楽しいひなまつり」が続いている。
実は上巳の節句3月3日は私の誕生日でもあり、年中行事の中でも雛祭りは特別な思いがある。
だが、この七段飾りを出すたびに、少し複雑な思いも去来するのだった。
そもそも、私のために母が用意したお雛様は、ガラスケース入りの木目込人形だ。
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おすべらかしよりも下げ髪が好みなので、このお雛様はとても気に入っている。
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では、七段飾りはどこからきたのか。
これは私が幼少期の頃、父が手に入れたものだ。いわく、
「当時の勤め先の知り合いに、家財道具を置いて夜逃げした一家がいてね。その家に残されていたお雛様を安く買わないかといわれて、娘も小さいからちょうど良いと思って買った。
箱に持ち主だったろう女の子の名前が書かれててね、お雛様を置いて逃げなきゃならなかったその子は今どうしてるだろうと、いたたまれない気持ちになるんだよ」
雛人形は娘の不幸を背負ってくれる存在
元々は、人間の「身代わり」。それが雛人形のルーツでした。人形たちを河や海に流して、厄払いとすれば娘が災厄から逃れることができる。雛人形は娘の不幸を背負って、流れていってくれる存在だったのです。
もう、おわかりいただけただろう。
そんな…お雛様…買っ、買っちゃダメでしょうが!!
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父は、悪びれもせずお雛様の話題になるたびにこの話をする。
いたたまれないのはこっちだっつーの。
我が父ながら、あの人はそういうちょっと人として大事なものか欠落した、サイコパスっぽいところがある。
七段飾りの出し入れの大変さと、飾るたびにこの話されるイヤさ加減で、実家ではあまりお雛様をださなくなった。
20歳で家を出てからはほとんど実家に行くこともなかったし、最後にお雛様を飾ったのがいつなのか思い出せない。
30年近くは、しまいっぱなしになっていたのではないかと思う。
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人の心とかあるかどうかの、無邪気なころの父。
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これは「ある歌人神主がみた明治」に登場する葦の舎あるじの暮らした宗像郡田島の家の庭だ。
生まれてすぐ実母と死別し、叔母に引き取られた父のことはそのうち書ける範囲で書いてみたい。
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このお雛様のなんとも言い難いバックグランドをきいた友人からは「闇堕ちお雛様」と呼ばれつつ、しかし運命的な経緯でいまここにいるんだと思って、毎年飾っている。
やはり、飾るとお雛様は嬉しそうだ。私も嬉しい。
今年もそろそろしまう時期となった。ありがとう、さようならお雛様。また来年。
これからも、闇堕ちの過去は過去として、この場所でゆっくり余生を過ごしてほしい。