舞台「タマリ」観劇記。良質なシチュエーションコメディの、イタく愛おしい者たち
地元の推し役者が出演すると聞き、ラゾーナ川崎プラザソルへ。千穐楽の開場前、すでに行列ができていました。
脚本はNetflix「サンクチュアリ-聖域-」を手掛けた金沢知樹氏。元・芸人で、構成作家でもあるとのことで、テレビ業界の裏側の「我々一般人は実際に見知ってるわけじゃないけど、きっとこんな感じなんだろうなあ」っぽさ、見せ方がめちゃ上手い。
最終リハーサル前、収録スタジオ脇のスペースで繰り広げられるワンシチュエーション・コメディです。登場するのは、いずれもかつては一世風靡したものの今では「あの人は今」的に世間から忘れられつつある、いわゆる落ち目のタレントやその付き人、番組制作者他。
かつての栄光にしがみつく痛々しいオワコンっぷりは、計算されたあえてのステレオタイプで揃えられ、「実際にみたわけじゃないけど、いるだろうなあ」と思わされる。
ロバート秋山による「クリエイターズ・ファイル」の面々をみるときの気持ちに近い。
昔のヒット曲にすがる演歌歌手と、どうみてもデキてるマネージャー。ブームが過ぎたマジシャンと、安っぽいファム・ファタルなマネージャー。成長して鳴かず飛ばずの元・名子役と、「昔めっちゃ観てました!」と無邪気に残酷な新人マネージャー。時がとまった男性アイドルと、時代遅れなノリの司会者、グループ卒業し存在感のなくなった女性アイドル、おそらく性格に難アリで干されたトレンディ女優と、理不尽なパワハラに耐える付き人…
誰もかれも、容赦なくイタい。きっとみんな、名前検索したらサジェストで「現在」「消えた」「干された理由」とか表示される。世間て悪趣味だ。
ほんとは自分でもオワコンだって薄々勘づいてるけど、プライドだけは高い。他の奴らに比べたらマシだとそれぞれ内心思っている。
ことごとくイタい。そして、よく知らないけど、いそう。
そんな落ち目タレントをそろえてドッキリを仕掛けようとする能無しディレクターとしっかりもののAD。Dは赤チェックのネルシャツにジーンズでたぶんB’zの稲葉さん好きなんだろうけど、足元は白靴下に革靴っていうのが妙に生々しい。よく知らないけど、いそう。
ドッキリ仕掛け人の若手劇団員も、よく知らないけどたぶんいる。ナチュラルに苛つかせるタイプ。元子役との殺伐とした稽古シーンがやたら面白かった。
と、用意された過剰なステレオタイプに役者が異様なまでにリアリティを施しコメディとして落とし込む。だからもう安心してずっと笑ってられる。そして思わず泣かされる。
みなさまほんと見事にそれぞれの役を、この世に実在するものにしていた。
あの舞台にいたキャラクターたちは、幕が下りたあとも人生が続く、と出演者のひとりが言ってましたが、それは何より演じた人たちが魂を吹き込んだからに他なりません。素晴らしい座組。
たぶん演歌歌手やマジシャンは結局、その後もパッとしないドサ回り営業が続く。演歌歌手は結婚・出産がちらっとヤフーニュースに出るかもしれないけどすぐ忘れられるだろう。
マジシャンはYouTubeにでたマネージャーが美人すぎると一時期バズるかもしれないけど、これまたすぐ忘れられるだろう。
大御所女優は、改心して気遣いできる人にはならない、今更。名物司会者も、古いノリは今更変えられない。でも一周まわってそこを面白がられる道はあるかもしれない。本人たちの本意かどうかはともかく。
元国民的アイドルも元トップアイドルも、たぶん世間的には旬を過ぎたとしても、根強いファンは少数でもいるはずだから、その人たちを大事にしてほしい。
若手劇団員は、きっと明日も下北沢でニコニコしながらチラシ配ってる。元・天才子役の呪縛は、一筋縄ではいかないかもしれないけど、今回の登場人物たちの中で一番変わることができるのも彼だろう。付き人を説得しながら自分にも言い聞かせていた彼は、きっと次のステージに進むことができるはず。
DとADは…なんか、「クソ使えないし悪口しか聞かないのになぜかずっと居座ってて、他人のふんどしで相撲とってなぜか出世するやつ」ってどんな業界にもいるけど、まあ、価値観や好みはひとそれぞれだから。
何よりも彼らを目撃した我々観客は、視聴者の立場になっても、「最近見ないよね」「まだいたんだ」「そもそもテレビ観ない」などと薄っぺらな感想で消費せず(いや、してもいいけど)、テレビに映ってないとこに思いを馳せるのも、悪くないかもしれません。
関係者のみなさま、おつかれさまでした。素敵な舞台をありがとうございます。
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