オカンと化した親友の話②~移動教室編~
昨日書いた~出会い編~の続きです
なんやかんやで親友となった彼女と私。
冬、移動教室の季節になった。
私たちは1974年生まれ。
いわゆる「ベビーブーム」の最後の年に生まれた。
つまり、1学年のクラス数も1クラスの人数もとても多い。
だからなのかは知らんが、移動教室を前にちょっとした事件が起きた。
移動教室で泊まる部屋は、当然だが男女別々で、1部屋に8人が寝られる広さだ。
しかし、しかしだ。学年全員で行くと微妙に部屋が足りないのだという。
そんなことってあるだろうか。
去年・一昨年はもっと人数が多かったはずだ。
なんせ、我々はベビーブームの「最後の年」生まれなのだから。
これまではどうしていたのであろうか。
まあ、先輩の移動教室事情はどうでも良い。
とにかく、我々に告げられたのは衝撃の事実だった。
「スペースの都合で、各部屋1人ずつ、押し入れに布団を敷いて寝てもらいます。」
押し入れで?寝る?だ、と?
ドラえもんみたいじゃないかっ!
私、押し入れがいい!
と嬉々として手を挙げたのは、クラスで私と彼女だけだった。そう、なんてったって気が合うのである。
しかし、彼女と私は班が同じなため部屋も同じ。
他の班では押し入れで寝るのが罰ゲームとして扱われる中、我々の班では押し入れの取り合いが始まった。
結果。
両者譲らず。
2人仲良く押し入れの2階部分(上段)で寝ることとなったわけだ。
アホである。
狭くて暗い押し入れの上段で、ふたりきり、イチャイチャしちゃって。
就寝時間前なのに。押し入れから出ることもなく。
なんというか、とても痛々しい。
そんな痛々しい1日目が過ぎ、移動教室2日目。
本当の事件が起きた。
この日、同じ班だったRちゃんが、彼氏にこっぴどく振られてしまったのだ。
そう、前回登場した学級委員のRちゃんである。
落ち込むRちゃん。泣いていたと思う。
ただ、問題だったのはそんなRちゃんの姿を見た彼女の方だった。
狭い押し入れの上段で「移動教室のしおり」を取り出し、泣きながら私にこう聞いた。
「ここにM(Rちゃんを振った彼氏)がどれだけ酷いことをしたかを書いて私が死ねば、Mは怒られるよね?!」と。
んん??
突っ込みどころが満載過ぎて、逆にどこから突っ込んで良いか分からないぞ。
ただ、当時は私も中学生。子供だった。
とっさになんと返事をしたら良いか分からなかったのだ。
「う、うん。そうかもね。」と曖昧に答えてしまった。
すると彼女はしおりに何やら書き込み、おもむろに正座をし目を閉じた。
舌を噛む!
そう思った。
ダメだよ!と止めに入ると、興奮した彼女は私を振り払い、押し入れから飛び出してトイレに駆け込んで行った。
その施設のトイレは、学校のトイレのように個室がいくつかあり、一番手前が掃除用具入れになっている作りだった。
トイレに逃げ込んだ彼女は手前の掃除用具入れに立てこもった。
内開きの扉を叫びながら押し開けようとする私。
中で泣き叫びながらそれを押し返す彼女。
シュールである。
途中、違うクラスの子が2人でトイレに入ってきたため、私は必死に、それはもう必死の形相で、手伝って!と叫んだが、その異様な光景にドン引きした2人はトイレには入らず、逃げるように去って行った。
掃除用具入れの扉は、他の個室と違い小さな取っ手が付いていた。
お互いに体重をかけて扉を押しあっていたわけだが、押して駄目なら引いてみろ。と思ったかどうかは定かでないが、私はその取っ手を思い切り引っ張った。
当然、押して開けるタイプの扉だ。
開くわけがない。
それでも力いっぱい引っ張った。
1センチくらいの隙間ができたため、そこに手を入れ、渾身の力で引く。
メキっ!メキメキメキっ!と大きな音とともに、蝶番のネジが外れ、無残にも扉はぶっ壊れた。
なんて力持ちなんだ。私。頼もしいぞ。
しかし、その時の私はそれどころじゃなかったのだ。
舌を噛み切ろうとする彼女の方が心配だ。
目の前には、掃除用のホースを首に巻き、それを両手で左右に引っ張る彼女がいた。
・・・
壊れた扉の向こうで掃除用具にまみれ、号泣しながらホースを首に巻き引っ張る親友。
これはもう、地獄絵図である。
素早くホースを奪い取りなだめると、しばらくして彼女は落ち着いた。
残ったのは壊れた扉だけであった。
この日のことを彼女は覚えていない。
おとぎ話のように何度も繰り返し話して聞かせたので、想像上の自分の姿を記憶代わりにしては笑っているらしい。
次回は、「大人の入口編」です。
こちらも読んでいただけたら嬉しいです。