「スナック ジェニ」で「老い」をみつめて。
ただ歳月を重ねるだけが「老い」ではない。
ただ弱くなるだけが「老い」ではない。
「老い」とは、優しさと傷が織り込まれ、それが発酵していく過程ではないだろうか。
ある1匹のおばあちゃん猫
今日、私が推したい猫は、保護猫シェルターQUEUEに在籍するジェニ。年齢は、推定17才。もう立派なおばあちゃん猫だ。
そんなジェニが時々オープンする「スナック ジェニ」は、密かな人気を博している。「スナック ジェニ」とはなんぞや。という画面越しのみなさまに向けて、簡単な紹介をしておきましょう。
「スナック ジェニ」
不定期でオープンするこのお店は、スナックのママことジェニが、人間のあんな話やこんな話を黙々と聞いてくれる。
そこでは、ジェニが「ここだけ」の空間を担保してくれる。だから、話すつもりのなかったことまで自然と言葉が溢(こぼ)れてしまう。
何の返事も、何のアドバイスもいらない。
ただ目を見つめ、「ここだけの内緒にしとくね」と言わんばかりの視線だけが共有される。たったそれだけ。その視線が、十二分に「返事」になり得る。そして、人間と猫の対話が成立したかのような、そんな不思議な〈場〉をジェニは提供してくれる。
心の内を引き出し、受け止めるさまを、きっと世間では「懐の深さ」と呼ぶ。この「懐の深さ」はジェニが簡単に身につけたものでないと、ジェニの過去を知ればおのずと悟るだろう。
ジェニの懐をのぞく
ジェニの前の家族も、ジェニ同様に高齢であった。共に歳月を積み重ねてきた。
しかし、人間も「老い」の前では無力だ。「老い」は、ジェニと人間の暮らしに終わりを招いた。そうして、シェルターにやって来たのだった。
長く1人と1匹の暮らしを送ってきたジェニにとって、色んな年齢、色んな性格の猫たちと暮らさねばならないシェルターは、ストレスのかかる環境だったと容易に想像がつく。
私が大学4年生の頃。食堂で談笑する1年生が眩しすぎて、コンビニで買ったおにぎりを、外のベンチで1人食べた日のことを今でも鮮明に覚えている。たった3つしか年齢が違わないのにこの様だ。人間ですらこんなんだから、他の動物だって同じだろうと考えてしまっても仕方ない。
しかし、動物はそんな人間の予想や心配なんて安易に飛び越える。ジェニも、例にもれなかった。
シェルターでの生活が数ヵ月を迎えた今、他の猫たちと仲良く暮らしている。時に頭突きで愛情を示したり、時に他の猫と元気に遊んだりしながら。そんな、しなやかに新しい環境へ適応していく経験が、ジェニの懐の深さを育んできたのではないだろうか。
「老い」と見つめあって
人間側の「老い」が原因で行き場をなくす猫の問題は、今後さらに増えていくと予想される。
今回、インタビューを行った保護猫シェルターQUEUEにも、飼い主の高齢化に伴い家族やケアマネジャーの方から「今後どのように対応すればよいか」といった相談がたびたび届くそうだ。
長く人間と暮らし、共に老いた猫が抱える問題は、人間と同じようなものばかり。身体は弱くなり、病気だって患う。そうなると、生活のサポートがこれまで以上に必要になる。
そして、そんな身体で新しい環境に適応するのは辛苦も多い。
それでも伴(とも)に
知った痛みの数だけ、優しさの数を知り、複雑に絡み合って、内面の深みになる。ジェニもそうしてジェニだけの魅力を熟成させてきた。
だからこそ、同じように多くの時間を経験し、歳を重ねてきた人とまた暮らしを伴にできるはずだ。
ジェニを受け止め、ジェニ自身も受け入れられる人。
そんな人と新しい生活を送ることで、それがある種の酵母のような役割を果たす。
そして、その酵母は、ジェニだけでなく人間側の魅力すらもゆっくりと発酵させて、伴に「老い」を楽しむ機会を提供してくれるのではないだろうか。
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ジェニのプロフィール🐈
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