魔性の猫「カモミール」が母猫から教わった、社会の生き方
学校で自分だけ周囲から浮いているように感じていたとき「友達と同じ行動をしなくてもいい」と母は教えてくれた。
「カモミール」も、きっと母猫から社会の波に飲みこまれない生き方を学んだに違いない。
今回は、そんなカモミールを保護している、かわぐちアニマルサポートの白滝さんからお話を伺った。
母猫の教育が行き届いていた「カモミール」の捕獲劇
ーーまずは、かわぐちアニマルサポートさんにいる「カモミール」の保護経緯を教えていただきたいです。
駐車場の車の下でさくら猫(避妊手術が済んでいる猫)の母猫からミルクをもらっていたのが、カモミールです。生後1ヶ月半くらいの仔猫で、他にも姉妹猫が3匹いたのですが、よく過酷な環境で生きていられたなと思って。
母猫のTNR(野良猫に不妊・去勢手術を行って元の場所に返すこと)に、うちの団体スタッフが関わっていたので「保護して里親を探しましょうか」ということで、仔猫を1匹ずつ捕まえていったんです。
そのなかでも、なかなか捕まらなかったのがカモミールだったんですよ(笑)。
ーー生後1ヶ月半の仔猫でも捕まらなかった?
そう!とにかく捕獲器に入らなかったので、最終的にはケージで捕獲したんですけど。一番最初に捕まえた子から、かなり時間にズレがあったんです。
だから、なかなか慣れなかったんですよ〜!一番凶暴でしたね(笑)。
ーー人馴れするまで、他の子とタイムラグはどのくらいあったんですか?
どのくらいだろう……。姉妹のペパーミントが来たのが7月11日だから、11日間ですね!
カモミールのお母さんを捕獲した人が、粘り強く頑張って捕まえてくれたんです。
ーー10日間って粘り強すぎません?
(カモミールの)お母さんの教育がすごくよろしかったみたいで(笑)。
ーーそこから慣れるまでは、どれくらい時間がかかったんですか?
カモミールを保護したのが2021年7月21日でしたが、ずっと面倒見ていても人に慣れなくて。
半月経った8月くらいに左目が開かなくなって……。結膜が腫れ上がって眼球が見えない状態になってたんですよ。
点眼と飲み薬をもらって「治ったな!」と思ったら、また再発して。注射に連れて行ったんですけど、またまた再発して……。
ーーキツイですね……。
クラミジアという感染症の疑いが強く、1ヵ月飲み続けないといけないお薬をもらったんです。他の子に移らないようにずっとケージに閉じ込めて、苦いお薬を毎朝、毎晩飲ませて、点眼して……と1ヵ月お世話を続けました。
しばらく経って、お薬のおかげで体調もよくなってから、少しずつ私達にも慣れてくれました。
人の心を射止めるツンデレヒロイン
ーー端的にいうと、カモミールはどんな感じの性格なんですか?
簡単にいうと、強烈なツンデレ(笑)。
ーーツンデレ、最高じゃないですか!
うちでは私が近寄ると警戒するんですけど、息子たちには脚にスリっと甘えるの!私のほうには近寄ってくれないから「羨ましい〜!」と思いながら見てるんですけど。
なので、男性には甘えるかもしれないです(笑)。うちの飼い猫の涼(オス)とも仲が良くて、一緒に遊んでますね。
ーーやっぱり性別の相性ってありますよね(笑)。同じ女性として白滝さんを警戒してるんじゃないですか?
人間の女性は私ひとりだからね。もう1匹、小麦っていう女の子の飼い猫がいるんですけど、たまーに近寄っては喧嘩してます(笑)。
けど、仔猫にはすごく優しいんですよ!
ーー白滝さんのご自宅には、飼い猫2匹とカモミールがいて、さらに仔猫が出たり入ったりしているんですよね。そんな環境で、カモミールは仔猫に優しいんですね!
優しいの!控えめで“やまとなでしこ”っぽいところがあって。
他の子がおもちゃで遊んでると自分は後ろのほうで見てるし、ご飯を取られても「しょうがないわね」って食べてるのを見てるし。
だから、いいお母さんにはなったんだろうなと思っています。カモミール自身、母猫に一番よく似ているので。
ーーなんだか、キュンとしちゃうな。
譲渡会に行くときも、ロキという猫と一緒に入れていると、ロキがカモミールに当たり散らかすんです。けど、カモミールは「しょうがないわね」ってじっと耐えるんです。
だから、私には厳しくても猫には優しいんですよね(笑)。
ーーカモミールはこれまでなかなかご縁につながらなかったとお聞きしたんですけど、どういう理由で決まらなかったんですか?
ひとつは、里親希望者がお母様と一緒に住んでいたのですが、洗濯物を干すときにバルコニーの窓を開けたままにしているのが気になったんです。
普段から開けっ放しにしていると、締めるのを忘れてしまうだろうし、その状況だとカモミールはどこかに行っちゃうなと思ったので、お断りしましたね。
それが原因で迷子になってしまうのも悲しいですし……。
ーー人間側の習慣がマッチしないことってありますよね。ご縁につながらなかったのはその1つだけだったんですか?
もう1つあったんです。そこは姉妹のバジルとカモミールで引き取っていただける予定だったのですが、どうもその物件が猫の飼育不可だったことがわかって。
周りに飼っている人はいるみたいなのですが、規約ではペットの飼育が不可だったのでお断りしましたね。
ーー建物の基準に則って、ということですよね。
そんな理由で、なかなかご縁がつながらなくってね……。
ーーカモミールと暮らすなら、どういう方が合っていますか?
カモミールは性格も安定してるし、手もかからないので、脱走防止などの対策をしっかりしてくださって、何かあったら病院に連れて行ってくださる方であれば!
ーー 一般的な猫を飼う環境があればって感じなんですね!
“他人軸”ではなく“自分軸”な生き方
「だれにも嫌われたくない」「気に入られたい」という思いから、大人になるにつれて無意識に人の懐に入ろうとするようになっていた。会社で上司から理不尽な頼みごとをされても「やらせてください!」と、本心を隠して期待に応えようと無理をすることもあった。
今回、カモミールの保護経緯や性格、他の猫との関係性から、他人軸で生きなくてもいいと思えるようになった。猫は、自由で気ままな動物だ。やりたくないことはやらないし、誰にでも甘えてすり寄るわけではない。きっと母猫の生き方を見て、幼いうちから学ぶのだろう。
そうすることで、本当に自分を尊重して愛してくれる相手を見極めている。人も同じように、自分軸を大切にすることで、猫のように自由気ままに生きていける。カモミールの近くにいれば、本心に向き合って、正直でいられるような気がした。
チビと一緒に暮らすカモミールのストーリー🐈