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朗読脚本『思考機関合法奪取』

心理テストでもしましょうか。目を瞑ってみてください。
あなたは部屋にいます。部屋には北から順、時計回りに、ベッド、クローゼット、本棚、窓があります。窓の片側を覆うように置かれた逆光の位置にあるテレビには、青みがかったフィルターを通して撮影された、暗く長いアメリカ映画が映っています。音声は英語、字幕は中国語。立ち上がり、東側、クローゼットの脇にある内開きの扉から出て、キッチンを通り、玄関扉のチェーンを外します。共用のオートロックからマンションを出たら、まずは右に曲がります。少し進むと右手にまだブランコの巻き上げられた公園があり、渡ろうとしている左手の歩行者信号はまもなく青に変わります。

信号を渡り、しばらく直進すると左手に韓国料理の店と、スープカレーの専門店が連続しています。焼肉屋の匂いに炭を加えたようなぬるい風と、香り高いスパイスを炒って立ちのぼる熱気のうち、決して皿には乗ることのない部分とがお互いを侵しあうように、くすんだ銀色の排気口から吐き出されています。

信号に差し掛かりました。ちょうど青信号なので対岸に渡り、続いて右、そうです、北を向いて信号待ちをします。都心部でなければ、斜めに向かう、というのは歩行者に待つことを強いるのです。慌てずに。

信号を渡って少し進むと、左側にスーパーがあります。やや重い扉を開けて入り、続く自動ドアをくぐります。入ってすぐ右手に「消毒済み」と書かれたカゴがありますが、今日は使いません。直進すると生鮮食品のコーナーがあります。そういえば、キャベツを切らしていました。1/4カットのものをひとつ、上着の右ポケットに入れます。壁沿いに右に曲がり、肉のコーナーに差し掛かります。

30%オフになっている豚の細切れを1パック、黒い肌着とおなかの間に差し込みます。少し戻り、左に曲がって通路に入ります。右手側、そうです、東を向いていますね、ここに、とろみのついた帆立だしの合わせ調味料のレトルトパウチがあります。ひとつ取って上着の左ポケットに入れます。通路を直進し、惣菜のコーナーに突き当たりますが、今日は用がありませんので左に曲がります。ビールとソフトドリンクの間に、ノンアルコール飲料が陳列されています。ハイボール風味の炭酸ドリンクを掴み、一番手前のものが十分に冷えていることを確かめてから、真後ろを向いて少し進むとちょうどレジです。タッチパネル付きの無人レジで会計をします。196円ちょうど、小銭で支払います。レシートは脇にある小さなごみ箱へ。ここからは帰路です。ばれないうちに。レジを左後ろにみて自動ドアをくぐり、続く重い扉を開きます。右に進んでいくと信号に差し掛かります。ちょうど青信号なので対岸に渡り、続いて左、そうです、東を向いて信号を待ちます。都心部でなければ、斜めに向かう、というのは歩行者に待つことを強いるのです。慌てずに。

信号を渡り、しばらく直進すると右手に韓国料理の店と、スープカレーの専門店が連続しています。焼肉屋の匂いに炭を加えたようなぬるい風と、香り高いスパイスを炒って立ちのぼる熱気のうち、決して皿には乗ることのない部分とがお互いを侵しあうように、くすんだ銀色の排気口から吐き出されています。そのまま進んでいくと、歩行者信号はまもなく青に変わるところです。正面にブランコの巻き上げられた公園をみて、右に曲がって少し進むと、左手にマンションがあります。オートロックを解除して、自室の玄関に入り、チェーンを掛けます。キッチンを通り抜けた先の部屋には北から順、時計回りに、ベッド、クローゼット、本棚、窓があります。窓の片側を覆うように置かれた逆光の位置にあるテレビには、青みがかったフィルターを通して撮影された、暗く長いアメリカ映画のエンドロールが映っています。音声は英語、字幕は中国語。

そこに私が住んでいます。


はい、目を開けていただいてOKです。アドリブ・イマジナリ・万引きゲームでした。あんまり気分のいいものじゃありませんでしたね。子供だまし/小学生のとき、小学生のとき、小学生のとき、小学生のとき、小学生のときだ。ちょっと変わった友だちがいました。失礼ですよね、こんなこと。看護師のお母さんに憧れていた活発な女の子でした。Yさんです。掃除の担当が理科室の奥、通称「準備室」になると、人体模型を見て必ずにやりと笑ったり。笑うんです。すごく。あとは階段の下にできる暗がりを見ることを頑なに拒んだりしていました。ちょうど「メリーさん」とか「トイレの花子さん」なんかが流行った時分でしたので、誰もが通る道かもしれません。ごっこ遊びなんです。ですよね。子供の想像力、というのは豊かで微笑ましいものですね。で、その彼女が、給食を食べて、放送室から曲がかかって、昼休みに、昼休みでした。その前に水で歯を磨きました。歯磨き粉の持ち込みはできませんでしたから。で、Yさんがこんなゲームを教えてくれました。ゲームです/ただの遊びです。「まず目をつむって、そうぞうの中で、できるだけはっきり思い出しながらお家に帰る。そのとちゅうや、家の中にいたひとかげの数だけ、あなたの家には何かがくらしているんだよ。」

僕の家には、何匹くらいいましたか。

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