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ぬるみにほほえむ

 過ごしやすさと引き換えに地表が過熱する今日この頃、平たく言えば夏をあと何回生きて迎えることができるのだろうか、というような議論そのものは既に手垢に塗れているのかもしれない。それでも何度かに一度の夜限定の涼風に吹かれながら「ありがたいね」なんて言葉を交わすとき、僕は生きていて良かったと心から思う。ひとと話すことは緩やかな矯正の一面がある。ひとりであることに加え、ひとりであるしかないという念慮は心根に鬱屈の形で浸みてくる。いうまでもなくそれは冷たい。稀に目の奥に顔を覗かせる・周りの人間を巻き込んだ生存への執着が、西日に負けじと燃え盛る。奇妙な冷温は心地よいぬるみになって、僕を明日に掻き立てる。街が移り変わっていく。心の沈殿のあたり、大仰にいえば主義じみた何かがその成分を変えていく。何を書いているのか分からない。月なんて見ないいつもの夜が結局僕を包んでいる。明日は朝の飛行機に乗る。眠ってしまうと起きられないかもしれない。

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