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土曜日然
明るくする、温かくするということを考える。自分のもので満たされて溢れた部屋において、とりあえず生活は続きうることを思い出す、その足掛かりとして蛍光灯と暖房を点ける。抽象的だな、と思い直す。くたびれて俯くのは大抵暗くて寒いときなので、そういう環境に身を置かないように積極的に努めるのだ。そうする元気が出ないときは、暗さと寒さを甘受して、冬眠の如く過ごす。むかし会った人の夢を、ひとりずつ見た。
交通量の多い道で、信号が変わるときの音を分解して聞いていた。赤が灯り、直進する車と左折する車がいなくなる。もう一度赤が灯り、右折する車がいなくなる。少し間をあけて、それまでの流れに直交するように地面がおもむろに鳴り出すのを聞いていた。地元の砂浜を少しだけ思った。
総じて、偶然性によって描かれるものと、余白を丁度よく纏った幾何学模様の群れにいまの僕は心惹かれるのだな、と感じている。無意識の揺れを軽い気持ちで言葉に落とし込もうとする試み自体がナンセンスであろうことは一旦脇に置いておいて、どんなものを見たときに僕の目が光るのか、ということを知るのは悪い気がしない。絵を、1枚買ったのだった。
飽きるまで、ことばでその絵を説明する。製作者の方曰く、はじめにキャンバスに立体的な模様をつけて、そのあとに色を塗る工法だそうだ。よく見ると、砂浜より少し向こうの、まだ白く砕ける前の波のようにキャンバスがうねっている。そこに青と赤が塗られている。絵具が混ざったところは紫のグラデーションになっている。ところどころに、水分を失った絵具のひび割れがある。砂漠の地割れのような無軌道な感じに、朝露のような生々しさもある。嗅いでみる。図工の時間のあとの流しのにおいがする。木の額縁に収められている。裏面には、額を自立させるための剣先の形をした板が斜めに金具で止めてある。嗅いでみる。図工の時間のあとの流しのにおいがする。