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ギフトラッピングをデザインする

デザイナーの千星(ちぼし)です。
NECKTIE design officeという名前でGRAPHIC / WEB / PRODUCTと領域をはみだしてデザインをしています。

ふだんは企業さんから依頼をいただいてデザインをしていますが、並行して自社でプロダクトをつくって販売もしています。今回は自社商品のギフトラッピングのデザインをしたので、その製作過程をまとめてみました。

紙について

紙はとても好きな素材です。グラフィックデザイナーとして、活版印刷をしている印刷者として紙に触れる機会も多くとてもよく使う素材です。
ただそれ以上に紙という素材自体がなんとも素敵で、他にはない魅力を持っているなといつも思っているので、今回自社製品という比較的制約が少ない状況で、紙好きっぷり(※)を存分に発揮するぞと意気込んでつくり始めました。

※この紙という分野には変態的?重鎮の方々がたくさんいらっしゃるので自らをたやすく「紙好き」などと名乗るにはおこがましいですが、なんとかがんばります。

製作過程の可視化

こういった小さなツールのデザインの製作過程ってあまり可視化されてこなかったのではないかと思います。完成品だけみると「うまく組み合わせただけでしょ」というように見えてしまうけれど、(あらゆる物事がそうであるように)その裏側ではいろいろな試行錯誤があったりします。

巨匠たちのグラフィックやプロダクトだと製作課程のラフや図面・モックアップなどが展示会として開催されたり、ラフスケッチの書籍もあったりするので見る機会も増えてきましたが、それほど目立たないこういった小さなツールも結構苦労してつくってるんだよってことが少しでも伝わればいいなと思っています。

ラッピングする商品

Letterpress Poster & Frameという活版印刷のポスターとフレームがセットになっている商品です。

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鯉のぼりのポスターもあるのでプレゼントでお買いあげいただくケースが多く、これまでラッピングのご要望もたくさんありましたが箱自体がそれなりに良い見え方をしていると思っていたのでラッピングには対応していませんでした。

ラッピングをしていない箱はこういったものです。

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チップボールをハーフカットして隅を針金で留める「隅留め」と言われる箱です。もともとは貼箱の芯材として使われていた技術で、貼箱の場合はこのあと上から紙を貼るので、これはいうなれば製作途中の状態。表面に紙を貼り付ける前の状態なので強度としては弱いのですが、この無骨な未完成の雰囲気がとても魅力的な製箱方法です。
最近はこの角の部分を針金ではなくテープで留めることが多くなっているので、この隅留めの機械は古いものしかなく保有している会社さんもかなり少なくなっていて、この箱は京都の製箱会社さんにお願いしています。

ラッピングの機能性を考える

普通のお店の場合は取扱商品がたくさんあるので、こうしたギフトラッピングは「どんな商品でも使えるもの」というのがベーシックな考え方になります。
でも僕のお店では商品は4商品しかないですし、実はすでにラッピングに対応している商品もあります。

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こちらのTEA BAG HOLDER “SHIROKUMA”(ティーバッグホルダー・シロクマ)にはすでにギフトラッピングの用意があって

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こういった白のセメント袋に赤白のツイストリボンをつけたものがあり、好評いただいてます。
このセメント袋にLetterpress Poster & Frameが入ればそれはそれでよかったのですが、袋のサイズ小さくがわずかに入らない、、、
ということで新しく専用のラッピングを考えることにしました。

まずはグラシン紙で包んでみる

はじめは大好きなグラシン紙で試してみることにしました。

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グラシン紙はラッピングによく使われる半透明な紙。片面ツルツル、片面ザラザラの質感。抄紙の工程でスーパーカレンダーという紙の表面を平滑にする機械(金属のシリンダー)でパルプ繊維を強く押しつぶすことで繊維の隙間がなくなって半透明になります。薬袋や古書に巻かれた紙というとイメージしやすいかも。

で、包んでみる。

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いや、これはないわ、、、イメージと全然違ってた。。。12,000円の顔をぜんぜんしてない。グラシン紙がチープな方向にいってしまって、グラシンの良さがぜんぜんでない。これをもらっても「わっ、うれしい」とはならない。

薄葉紙をいろいろ試してみる

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グラシンに似た薄い紙。これもよくラッピングに使われるのでそれを試してみる。

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シルバー

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ゴールド

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黒。 
この中では黒が一番しっくりきてる。ただ商品にあまり黒い要素を使っていないので、ややシックすぎるかも。

真鍮のゴールドを生かせないか

商品が無垢の真鍮材を使ったフレームなのでそのゴールドの印象をうまく活かせないかと考える。真鍮もピカールとかで磨けばピカピカになるけど、商品で使っているのは磨きをかけていない無垢の真鍮材。この雰囲気が好み。

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ただゴールドってだけだと薄葉紙のゴールドでテストしてイマイチだったので、目指すのは単純なゴールドではなく奥行きを持ったゴールド。理想はクリムトのゴールドみたいなの。

そこで思いついたのがリソグラフのムラを持った金刷り。もともとリソグラフだとベタもムラになるけどはじめから少しテクスチャーを入れたものを印刷したら奥行きのあるゴールドになるのではと考えました。

入稿のデータはこんな感じ。

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印刷はいつもお世話になってるレトロ印刷JAMさんに。なんといっても金刷りも含めて格安で紙3種の試し刷りしてくれる神対応!すばらしい。
印刷できる最大サイズがA3で、箱のサイズを計算するとトンボ付きだと少し長さも幅も足りないので、仕上がりA3サイズのフチ付きの印刷をしてフチ部分を手切りでカットして熨斗(のし)のように巻けばなんとかサイズ的には収まりそう。

ということで「クラフト紙」「レトロ紙-A」「にごり紙-青磁」の3種類でテストを依頼。

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試し刷りが送られてきたー。

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「レトロ紙-A」 いい感じにムラになっててとても素敵。

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「クラフト紙」 未晒クラフトに金刷りはオフセットでもよく使う手法。なぜか普通の紙よりキラキラがでる。写真では少しわかりにくいですが、ムラが少なく光沢感は一番ある。
で、今回一番よかったのが次の

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「にごり紙-青磁」 手元にあったリソグラフの印刷見本帳でも一番ムラになっていたのでいい感じになりそうと予想してましたが、想像以上にがさっとしていて金と紙のグレーが良いコントラスト!めっちゃいいのできた!と思いましたが、

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めっちゃ指にインクが着く、、、
もともとJAMさんの注意書きにもあるようにリソグラフの金インクって定着しなくてインク落ちが激しい。ある程度考慮はしてましたが、これだけの面積をほぼベタで刷るとめっちゃ指につく、、、ムラが激しいということはそもそもちゃんと紙にインクが定着せずにはがれてるので「ムラになってる(いい感じ)=インクが手に着く」というトレードオフの関係になってる、、、テストした中ではクラフト紙に金刷りがムラが少ないぶん指にはつきにくかった。
なので、いったん「クラフト紙+金刷り」で上下の余白部分をカットしてラッピングしてみる

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この余白部分をカット。こう見ると金で印刷されていることがよくわかる。で、パッケージに巻いてみる。

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結構いい感じ。落ち着いたゴールドの雰囲気は今までのなかで一番よい。
いったんTEA BAG HOLDER “SHIROKUMA”で使っている赤白ツイストの紐で巻いてみる

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が、この紐はまっったく合わないことが判明。紐のPOPさと紙のシックさがハレーションを起こしてとんでもなくあわない。紐と紙の相性も重要な要素ってことがあらためてわかる。

紐をいろいろ試してみる

今度は紐もいくつかテストしてみる。ここは多数の紐を短い単位で売ってくれるゼネガーさん(神対応その2!!)で購入。

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ヘンプコード 1mm

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ポリエステルコード 0.8mm

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ワックスコード 0.75mm

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リネンのワックスコード 0.6mm

色だけでなく太さでも印象は違ってくる。いろいろ試すとグレーのワックスコードが相性が良さそう。それにTEA BAG HOLDER “SHIROKUMA”で使っているタグをつけてみる

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雰囲気としてはまずまず。でもタグのバランスがなんか悪い。

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タグも紙質と長さをいくつかテスト。

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いろいろ試して、この組み合わせが相性が良さそう。

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ただこのA3の紙だと熨斗(のし)みたいな巻き方になるので、上下はパッケージがむき出しになっているのが実際に見てみると若干気になる。ラッピングって名前だけに完全にくるんでないとラップしていないからか、なんだか途中感がでてしまう。

デザインを寝かせる

ここで結構デザインに行き詰まる。というのもよくよく考えるとクラフト紙に金刷りしたような紙はすでにあって竹尾さんで売っている「ヴィンテージゴールド」という紙。これは未晒クラフトの片面に金のパウダーをコーティングした紙なので、やっていることはかなり近い。

これはこれで好きな紙なんだけれど、仕上がりが綺麗すぎてイマイチ雰囲気にあわないし、特殊紙を巻いてるだけになってしまって面白みもなくなってしまう。うーーんどうしたものか。ということでいったんデザインを寝かせる。

寝かせている間も、純白ロールにオリジナルの柄を入れたものやくしゃくしゃにした紙を巻くなどのアイディアも思いついたけれど、どれもピンとこない。なんとなく悶々として解決しないまま日々を過ごす。

文字入れてみたら?を思いつく

ずっとタグをつけることにしていたけれど、別にタグつけなくてもいいんじゃないかと思い始める。だったら紙側に何か表記があったらいいんじゃないかと思って、前回のクラフト紙に金刷りしたものにインクジェットプリンタで印刷してみる。

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が、全くインクが乗らない、、、金インクはJAMさんでもいちばん最後に印刷して、金インクの上には何も印刷や加工ができないってことだったけど、見事にダメだった。しかもインクジェットプリンタを通すときのローラーでインクが剥がれてローラー跡もでてしまった。
ではインクジェットがダメならスタンプなら?

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これもダメだった、、まったくインクが乗らない。恐るべし金インク。。。

もっと熨斗(のし)っぽくしてみる

天地にパッケージが見えるのがなんか微妙に思っていたので、いろいろ考えているうちに「もともと熨斗っぽい巻き方をしているんだったら、もっと熨斗っぽくしてみたら?」と思いつく。
ということで上下を短くしてさらに熨斗っぽくしてみる。

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これはこれであり。でも上下がむき出しになっているのが、いいのか、悪いのか、、、

さらにデザインを寝かせる

どうにもこうにも「これだ」って感じにはならないので、ふたたびデザインを寝かせる(というかほぼ行き詰まってる感)。何がいいのか、どうしたいのか、自分でもよくわからなくなってくる。もんもんとした日々が続く。もうこのリソグラフの金刷りのアイデアから離れた方がいいかもしれない。

ふとしたことで単純なアイデアを思いつく

多くのアイデアがそうであるように、思いついてしまうとぜんぜん大したことではないけれど、それがきっかけで物事が堰を切ったようにぐぐっと進展することがあります。
今回もまさにそんな感じで「せっかく金で印刷してるんだから抜き文字にして、紙の地色を見せて印刷すればいいじゃん!」と思いつく。というか、なぜ今まで思いつかなかった自分!ばか! それなら市販の紙(ビンテージゴールド)との違いも出るし一石二鳥! 任天堂の宮本さんの「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」という有名な言葉もあるように、なんかいくつかの問題一気にが解決したような気がする。

早速JAMさんに再び試し刷りを依頼。今回は紙の地色を使うので文字の視認を考えて白色系の紙に刷ってみる。依頼したのは「わら半紙」「ハトロン紙」「クラフト紙」の3種類。

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刷り上がってきたー!

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「ハトロン紙」

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文字もくっきりでてるし、ムラもいい感じ。ただやっぱり

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ムラがいい感じのものは金インクのインク落ちが激しい、、、ぐむむ

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クラフト紙の文字は他の紙に比べると文字は見えにくいけれど、逆にそれが繊細な印象になっていていい感じに。やはりクラフト紙がムラが少ないぶん金の定着が一番よい。
しかしまだ懸念点は残っていて

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JAMさんからの同梱物になにやら気になる注意書きが

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「本注文では印刷枚数が増えますので、試し刷りよりインクが薄くなります」むむむむ、、、これは本番で印刷してみないとわからない。ただ方向性としてはこの形でいけそう。あとはやってみるのみ!

金インクが指につく問題

これはプロダクトあるあるなんですが、サンプルと量産で違ってくるというのはよくあることです。今回はJAMさんの注意書きにあるような金インクが薄くなることもなくいい感じで上がってはきたのですが、サンプルのときよりもインクがなかなか定着しなくて、

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こんな感じで1ヶ月くらい乾燥させるとインクが落ち着くみたい。ただそれだと注文に間に合わないこともでてくるかと思うので、まだ定着が甘いときには

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「フィキサチーフ〜」(てってれ〜)
美大生とかならご存知の定着剤。もともとは鉛筆や木炭、パステルなどの画材で書いたものをコーティングしてかすれるのを防ぐスプレー。ようするに「表面をコーディングする」ってことなので応用できるかも?と考えました。
ということで

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プシューッとスプレーを吹きかけて手にインクが付く問題を解決(手間はめちゃめちゃかかるけど、、、)

過去のアイデアと組み合わせる

あとは熨斗(のし)っぽく巻いた天地部分にパッケージが見えてしまう問題が残っているが「はじめの頃に検討した薄葉紙と組み合わせてみたら?」ということを思いつく。過去のトライアンドエラーがここに来て活かされる。一周まわってきた! おかえり。
ということで試してみると、うん、これはいけるかも! キタコレ!

難産のすえに完成

ということでどうにかこうにか完成!

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写真では刷り金具合がちょっとわかりにくですが、質感のあるラッピングになったと思います。これプレゼントされると「おっ」ってなると思う。なるはず。なって。

ラッピングの価格は200円。ほぼ素材原価でラッピングの作業工賃は入ってませんが、商品をお買い上げいただいたサービスの一貫と考えているのでみなさまぜひ!

そして新しくクリスマスのポスターも発売しました! こちらの商品でももちろんラッピング対応可能ですので、こちらもぜひどうぞ!

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このポスターも紙好き・紙加工好きっぷりが結構でてると思います(特に振り金という真鍮粉を蒔絵のように振りかける技法)。これはこれで悶絶のうえにできた商品なので、時期を見てnoteを書いてみたいと思います。

Instagram 
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Web
www.necktie.tokyo



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