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Photo by
oldies1950
昔住んでいた家
坂道をガンガン上らなければ帰れない家だった。
窓から見える夜景や、坂の上から見える朝日の光る海はとてもキレイだった。
でも過酷だった。
どんなに辛い時でも坂を上り下りしなければ出かけることも帰ることもできない。
私が住んでいた当時、町内には自販機一つなく、あるのは公衆電話ボックス1つだけだった。
自動車と運転免許があればまた違ってくるだろうが、子どもだった私には無理な話だった。
幼少期から思春期まで、家庭状況が最悪な辛い時期を過ごした家でもあった。
幸せな思い出と辛い思い出、両方が詰まった家・・・もう40年近く経つというのに夢で見ていた。
実際訪ねてももうそこにあるのは他人の住んでいる家。行っても仕方がない・・・と思っていた時にふと気が付いた。
グーグルマップで見てみたら?と。
便利な世の中になったな、と思いつつ地図を辿ってみた。
昔遊んだ公園、車で上った先にあった電話ボックス、小さな社の近くにある古いヤマモモの大樹。懐かしい風景が画面越しに見えた。
でも変わっている部分も多かった。
見慣れないアパート、駐車場、家。やはり40年近い月日を感じた。
昔住んでいた家はまだそこにあったけれど、隣の家は取り壊されて土地だけになっていた。
母の友人だった初老の女性宅はもう無人なのか、住んでいる気配を感じない佇まいになっていた。
ここはもう私の知っている町じゃないんだな・・・と感じて、それから古い家の夢は見なくなった。
もしかしたら幸せだった頃の記憶を求めて夢を使ってあの町を彷徨っていたのかもしれない。
幸せな記憶も辛い記憶も小さく畳んでようやく仕舞うことができた気になった。
今度夢で家の夢を見ることがあるならば、今の家だといいな・・・と思う。