手をつないだ記憶

手をつなぐという行為は小さな子どもがいる親ならば誰もが一度はしているのはないだろうか。

私には父と手をつないでいる記憶がない。

わずかに残った幼少期の写真を見ても手をつないだものはない。

そのせいか、実は今でも手をつなぐという行為が苦手だ。

それを克服したくて小さい頃は自身の子どもとなるべく手をつなぐようにした。

そのせいか子ども達は今でも手をつなごう!と言って寒い日に私の手を温めてくれることがある。

ありがとう。


手をつなぐ、ということで後悔していることが一つ思い浮かぶ。

関西ではお正月を過ぎた頃に❝えべっさん❞という商売繁盛を願う祭りがある。

1/10をはさんだ前後3日間、神社はとても賑わう。

正式に離婚を控えたある日、何故か私、母、父はえべっさんに参拝しに行った。

ごった返す人ごみの中、父は道を開くために先頭を歩き、それに私と母が続いて歩いていた。

その時、後ろを歩いていた母が私に言った。

「お父さんと手をつなぎなさい。」

・・・え?となった。

手をつないだことなんかないのに、今更?

私、中学生だよ?お父さんと手をつなぐなんて。そんな歳じゃないよ、と。

結局はそのまま人ごみを歩き、お参りを終えて帰ってきた。


手をつないだくらいで親子関係が劇的に改善することなんかなかったと思う。

頭ではそう理解しているのにどこかに『お父さん!手、つないで!』と甘えられなかったんだろう、なんて思ってしまう。

まぁ、それができていればここに毒を吐き出すこともしていないのだろうけれど。

母はきっと私に父をつなぎとめて欲しかったんだろうな、と思う。

子どもを鎹にして。


あの時、手をつないでいたら何か変わっていたかな?

・・・いや、そんなに変化はなかっただろう。

もう父の心はそこになかっただろうし。

それなのに後悔の念だけが残っている。

手をつなげばよかった。

お父さんっ!って。

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