偽物のシャネル
ちょうどバブルのちょっと後になるだろうか。
母と離婚した父は付き合っていた人と再婚した。
長い間勤めていた会社を辞めて独立し、自身の会社を作った。
派手な生活をしていたようで、母や私の耳にまでその噂は流れてきていた。
社員を連れてハワイにも行っていた。
父大好きっ子だった兄は目の前で「子どもはいらん」と言われて泣いていたのに、父の誘いに乗って社員になっていた。
私にも事務員をしないか?と誘われたが断り学校の推薦をもらって小さな会社へ就職した。
兄は社員のはずなのに何故かハワイには連れて行って貰えず、愚痴を言っていた。
あまり会話のない兄弟だったので深く追及はしなかったが、再婚相手の奥さんも連れて行っていた様子だったので察した。
ハワイから帰ってきた暫くした頃、父が私にお土産を持ってきた。
シャネルのバッグだった。
ブランド物に興味を持たない娘だった私はほとんどそのバッグを使わないでいた。
その後、子どもが生まれ独身時代の派手で全く使わないバッグ類を断捨離しようと整理していた時にお土産で貰ったバッグも出てきた。
不用品と一緒に買い取り業者に持って行くと買い付けして貰えず返された。
ニセモノだったようだ。
まぁ、そりゃそうか・・・。
シャネルの本物のバッグを「いらない」と捨てた子どもに買ってくるのも変な話だし、一緒に買い物していた現在の奥さんがOKするのも変だし。
あのバッグは奥さんから私に対する「あんたはこれがお似合いよ」みたいな意味を含んでいたのかな?なんてその時ぼんやりと思った。
持ち帰ったバッグを不燃ごみか何かに出して捨てた。
夜逃げする直前だと思うが、父は私に会いに来た。
その数日前に貸した2万円を持って。
「じゃあな・・・」と言っていたか?あまりよく思い出せない。
少し寂しそうな顔をしていたとは思う。
あれからもう20年近くになるけれど、父からは一度も連絡がないし、どこで生きているのかも知らない。
父が大好きだった兄も消息不明だ。
そんなところまでまねして生きなくてもいいのに。